どうやら、本を読みふける二人に置いてきぼりを食らって、何も出来ず背後で待っていたらしい。

「あらやだ!ごめんね坊や!つい!」慌てて駆け寄ると、ぱっと、少年が待ちくたびれた笑顔を向けてきた。ほんとにごめんね!

「ごめんごめん!サノト君!…そうだ、ちょっとお茶にしようか!」

同じ様に駆け寄ったレグサがそう提案すると、近くで本の整理をしていた店員らしき男が「でしたら、二階にどうですか?」と進めてくれた。

本を買ってくれれば二階で珈琲を一杯貰えるとの事で、早速、手に抱えたままだった本の束をレグサもアガサも購入し、サノトの分の珈琲は別で購入して、二階に上った。

地上と同じく本棚に埋め尽くされた二階の、奥の開けた窓際に、三脚に囲まれた机を見つける。

思い思いに座って、本を置くと、三者三名、ほぼ同じ調子で珈琲を啜った。

なんとなく、買ったばかりの雑誌を開いて、また啜る。不思議な気持ち良さが脳内と胸にしみ出してきた。

「こういうの、悪くないわねぇ」雑誌を捲りながら独りごちると、隣からレグサが、ひょいと中を覗いてきた。

「アガサは何を買ったの?」と、内容を尋ねられる。

「これ、廃刊になった雑誌なのよ。アタシ好きだったんだけど、やっぱり雑誌ってとっておかないじゃない?なくなって分かるありがたみってあるわよねぇ?」

「へぇ。そういうのが買い戻せる辺り、やっぱり特治街っぽいよね」

「そういうアンタは何を買ったの?」

「うん」頷いたレグサが、鉄道書や、史実書、投資関連の書籍を何冊か取り出した後、最後に、前者とは全く関連性の無い、色鮮やかで大きな書物を取り出した。

「これはサノト君用に」そう言って、本の束からそれを抜き取り少年に手渡した。

自分の分があるとは知らず、本を受け取るなり、少年がきょとんと目を丸くさせた。

少年が中を開き、アガサものぞき見ると、子供向けの大きな絵に、少しだけ、文字の説明が書かれていた。何処にでもある普通の絵本だ。

「記憶が無いからって、絵本を渡すのはどうなの?」馬鹿にし過ぎではないのかと笑ったが、レグサは、至って真面目な顔で「そんな事はないよ」アガサの嘲りを一蹴した。

「記憶が無いからこそ、絵や写真みたいに、ぱっと見て直ぐに理解が出来る物が良いと思うんだよ。文字だと、その文字が、何を指して書かれているかを理解するまでにまた理解がいる。それよりは、直ぐに実像を持った方が、頭に優しいと僕は思うんだよ。ねぇ?サノト君、そう思わない?」

「…はぁ、俺にはよく分かりません。でも、絵本なら、内容が分かりやすいと思います」

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