ゴミなのか、本なのか、商品なのか、本なのか、判別がつかなくなる具合だ。
久しぶりに趣いたが、初見の時と同じく「不思議な街だ」という印象が、アガサの心境を埋め尽くした。
けれど、特治街とはどこもそうなのだ。そこだけがまるで、「ひとつの国」のような、特異雰囲気を持っている。
そしてその「国民」たちも、また風変わりばかりなのだ。
現に、視界に見える数人の人間が、本にとりついたまま動かなくなっていた。
本棚の前に立ってひたすら背表紙を眺める者、カゴに入った本をひたすら斜めに読みふける者、店に入った途端、二度と出てこない者。
何もかも、本から動きだそうとしないので、風景画のように見える始末だ。
それが「普通」だということが、変わり者の国民性を、如実に物語っていると思う。
「久しぶりに来たけど、相変わらずぶっ飛んでるわね」アガサがため息混じりの感想を漏らすよりも先に、ふらふらと、レグサが本棚に張り付いた。そういえば、彼も本が好きだった事を思い出す。
「…この本続き出てたんだ」何事かをぶつぶつつぶやきながら、早速、背表紙を指で撫で始めている。
いやぁね。これだから本の虫は。と、小馬鹿にしようとした最中。
「…あら、あらあら。なぁに?古い雑誌なんかも置いてあるの?へぇ…」
古びたカゴの中から見た事のある雑誌を見つけて、吸い込まれるように手が伸びた。
結構前に買い続けていた雑誌の束だった。お、と、気分が乗る。
ぱらぱら捲ると、当時の掲載記事が、アガサの記憶を存分につついてきた。
やだ懐かしい!好きだったのよねこの雑誌。でも、暫く買わなかった時期があって、いつの間にか廃刊になってて…。
あら?演芸雑誌なんてのも置いてあるの?
今まで、本に全然興味がなくて、この街は人と会うか通り過ぎる程度にしか利用していなかったが、よく見てみると、自分の好きな雑誌とかも置いてあるのね。
あら、料理雑誌もある。これも廃刊になった奴だ。
これも結構気に入ってて、買い続けてたんだけど途中で廃刊に…。
―――自分が雑誌を読みふけっていた事に気づいたのは暫くしてからだった。
はっ!と、突然我に返って、慌てて雑誌を閉じた。近くを見ると、レグサも同じように、はっと顔を上げて本を閉じている所だった。
どうやら二人して同じ事をしていたようだ。
そういえば、少年はどうしていただろうかと、辺りを見返した時、適当な場所に腰かけ、しょんぼり下を向いている少年の姿を見つけた。
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