「安すぎる」病院を出て、レグサが直ぐに発した言葉だった。自分も同じ事を考えていたので「そうねぇ」と同意した。
少年だけが、二人が何を指しているのか分からず、おろおろ二人の顔を交互に見比べていた。
「なにがですか?」と聞かれたレグサが、「診察代だよ」とぼやく。
今まで、診察代が高かった事にたくさん嫌味をこぼしていたので、それが安くてもぼやくレグサに、少年は大層驚いている様子だった。
「正直、今回の医者が一番成果があった。っていうか、もうほとんど答えを言ったかもしれないのに、それが一番安かったとはどういう事だ!!しかも目的地だったし!!僕の今までの医者巡りはなんだったの!」
「そりゃもちろん、失敗よ」
「正直に言われた!むかつく!これで最後に言い値でどん!と金を支払えば、投資したかいがあったってオチになるのに、最後があれじゃ、割がずれまくって、きもちわるいー!」
まぁ、分からないでもないが。今は良い結果に事が及んだ事を喜ぶべきだろう。
ぎゃあぎゃあ煩いレグサを無視して、「良かったわね」と、少年に話しかける。
自分の事だと察したらしい少年が、ふわっと、アガサに笑顔を見せた。やだー!もう!可愛い!!
特治街の医者を何件か訪ねる予定だったが、あの知見ならば医者を変える必要は無いという事になり、早速、此処に滞在する為の施設を探す事になった。
もう少し歩いて開けた場所に向かうと、路地に入った処で、「お」「わ!」「あら」全員で声を上げた。
レグサが、先頭に立って、「声」を上げた物を、まじまじと眺める。
そこには、レグサの背丈よりも少し低い本棚が立てられていた。それも、路地を背に、向こうの先まで、延々と立ち並んでいる。
野ざらしにされた本棚に沿って路地の向こうへ向かうと、今度は大きな通りに出た。
忙しなく走るバスを前に並ぶのは、これも、本、本棚の列だ。
その後ろで構えているのは、大きなガラス張りの建物。恐らく、この本棚を取り扱っている書店の群れだろう。
寂れた店、新しい店、小さな店、横を連ねる大きな店。
古いものと、新しいものと、そのどちらにも混じって、埃臭さと、古くて甘い匂いが立ちこめていた。
鼻を鳴らすと、その独特の香りが鼻先から喉にまで駆け抜けた。
右も、横も、前方も、通りの先にも、見渡せば、此処には、何処にでも「本」が置いてあった。宙に浮いていないのが不思議なくらいだ。
場所によっては、本棚から痛んだ本がこぼれ落ちたり、直接地面に触れて、積み重なっている場所もある。
「不使用」や「用済み」「ご自由にどうぞ」など、廃棄目的の物もあれば、破れているのに値段がついている物もある。
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