これ以上は医者を増やす必要も無いだろうという判断に至り、少年とレグサはそのまま特治街へ向かう事になった。
暫くそこで様子を見て、良くなればよし、平行線ならいずれは総合病院にも行ってみようという話になった。
少年の検診にしばらく距離と日を割いたので、特治街へ辿り着くのにそう時間はかからなかった。
特治二十七番街、通称特治街は、駅を降りて、街にさしかかったところで、レグサは早速、近くを歩いていた人を捕まえて街医者の所在地を尋ねた。
その人が言うには、街医者は此処からもっと遠い場所に居を構えているらしい。早速、徒歩で行く事は諦め、さっさとバスに乗って移動した。
暫くして、他の建物よりも更に身なりの寂しい建物が、肩身が狭そうに立ち尽くしているのを見つけた。
他の病院とは違い、人が混み合っている様子もない。その所為か、気配の有無すらおぼろげだった。3階が、病院の診察室になっているらしい。
立て付けの悪い扉を開くと直ぐに3階に昇った。更に立てつけの悪い扉を開くと、中では、初老の医者が本を枕にして、うとうとと眠りこけていた。よほどヒマなのだろう。
アガサはつい、横にいるレグサに「ちょっと、大丈夫なの?」と、小声で尋ねた。
不安そうな素振りは見せず、レグサが軽く頷く。
「まぁ、身体を捌かれるような症状じゃないから、見て貰うだけなら大丈夫だろう」
「…それもそうね」
判断だけなら、腕の善し悪しからの被害は出ない。という事で納得し、早速、眠りこけていた医者を呼び起こした。
鼻に風船を作っていた医者が、それが弾けるのと共にぱちっと目を開く。
客が来たのだと分かるなり、体勢を戻して「すみませんね」と、照れ笑いを浮かべた。
「あまりにも暇なので、つい、眠りこけてしまいまして…。いやぁ、この街は医者いらずですね。ところで、患者はどちらの方ですか?全員ですか?」
「いえ、こちらの彼です」
背中を押された少年が、緊張気味に医者の前に座る。
医者は、少年を上から下まで眺めた後「はて?」と、診察する前から首を傾げ始めた。
「ケガはないし…顔色も良い。発育に問題もなさそうだ。この少年の何処を心配されて来たのかな?」
「見えない部分なんですよ、先生。彼には記憶が無いんです。生まれつきではなく、つい最近なくしてしまったんです」
事の経緯と症状を、レグサがざっと医者に説明すると、医者は、何時も通り「なんだそれは」みたいな顔を…浮かべず、「ああ」と、小さく頷いた。
「なるほど、記憶障害ですか。…そうですね、君、私が医者だという事と、医者が何かという事は分かるかな?」
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