「…ねぇ、一発ヤれば記憶、元に戻るかな」

「いきなり何言ってんのアンタ」

確かに同じような事を考えてたけど、目的と言い方が最低過ぎて流石に引いた。

「ほら、何人かの医者が、記憶が飛んだ原因と同じくらいの何かがあればどうこう言ってたじゃない?それくらい気持ちよくさせればイけるかなって」

「やめなさい。彼の末路が悲惨過ぎるわ」

レグサに付き合って、ひそひそ話し合っていると、少年が「あの」と、再び尋ねてきた。にっこり笑って、レグサが振り返る。

なんて爽やかな笑顔だ。あんな最低な台詞を吐いた後では、けして出してはいけない爽やかさだ。

顔が良いからといって、自分の性癖が罪にならないとでも思っているのかコイツは。

「ずっと聞きたかったんですけど、俺たち、どういう関係だったんですか?…知り合いだったんですよね?」

「恋人だったんだよ、サノトくーん」

こらこらこら。純粋な目に向かってなんてことを。少年がとんでもなく吃驚した顔で「え?え?」と、混乱しているじゃないか。

「ほらアガサ、恋人だったらヤっても問題ないでしょう?」

なにしれっと改竄してんだこいつ!上からシモまでとことん最低だな!

「…こ、い…びと?あの、いま俺、こんな状態なので、しっかりとは判断出来ないんですけど、…男は男と恋人にならないですよね?」

「ははは、そんなの感情が芽生えれば関係な」

明るい口調で軽口を叩いていたレグサが、不意に、ぐっと口を閉ざした。

どうしたのだろうかと顔を覗き込めば、彼の目が一杯に開かれているのが見えた。

突然黙り込んだレグサに、少年が目の前でおろおろと心配を始める。

「………どうして」

やがて、口に手をあて瞼を落とすと、ぶつぶつ、聞こえない程小さな声で呟き始める。それから、手を解いて。

「なぁサノト君、どうして君はその判断が出来るんだ?」

「え?」

「…待て、そもそも、どうして彼は会話が出来るんだ?」

不明な事を呟いて、から、こん!と、カップの底を一度叩いて持ち上げた。それを、少年の目の前で掲げて見せる。

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