「え?」

「え?なに?」

「あ、いや。…自分の事よりも先に、別の人を紹介するんだなって」

「え?ははは、何を言うんだサノト君。僕と君はもう知り合っているのに、自分を改めて紹介なんてしてどう」

するんだ。と、言いかけていたレグサの口が止まる。

それから、まじまじと、相手の姿を上から下まで眺めた後、そっと口を開いて。

「…サノト君、どうして僕をそんな風に見るんだ?」

レグサの台詞に、少年の気配が不安げに揺れた。流石にアガサも、二人の様子に違和感を感じ、少年の居るベッドに歩み寄った。

「えっと、俺たち、…知り合いでしたっけ?」

「なにを言っているんだサノト君、流行りの冗談かい?」

「…え、サノトって俺の事?」

「え」

多分、疑問が口をついて出たのだろうが、その言葉でとうとう場の空気が凍り付いた。一番凍り付いたのは、それを口にした本人だ。

自分の言った事に対して「え?」と、疑問を繰り返す。まるで、それが飲み込めなかった石だったかのように。

少年は、レグサを見て、アガサを見て、部屋の中を見渡して、から、おもむろに立ち上がった。

そして、窓に映る自分を眺めて、…がたん!と、後ろに倒れて尻を打ち付ける。

ゆっくりと、その格好で首だけ斜めに振り返った少年の、目が、零れるの大きさで見開かれるのが見えた。

「…うそ、だれこれ」

それは多分、人間が生きている間、自分に対して、けして口にしてはならない類の言葉だった。






―――頼んでいた医者は運良く、早く見つかったが、目的は全く別の場所に割り振られる事になった。

「君が患者さんだね?初めまして。早速で申し訳無いんだけど、幾つか質問をさせて貰っていいかな?…君、自分の名前は分かるかい?」

「………わかんない」

「どうして此処に居るかはわかるかな?」

「………しらない」

「それじゃあ…」

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