「変な前振りね、早く話して頂戴よ」
アガサの同意に、レグサがにっこり笑って頷いた。
とりあえず、連絡通路から乗車席の方へ移動しようという話になり、適当な所で向かい合って座った。
意識の無い少年の頭をレグサの膝に乗せる形で落ち着き、その頭を、レグサがご機嫌な様子でぐりぐりと撫でる。
それから、「さて」と、相槌を打ってから、すべらかな口調で、少年と出会った後の経緯、少年の事、それから、何故連れてきたか、何を目的としているかを、何十分もかけて説明した。
途中までは真剣に、途中から、唖然としてしまったアガサが、レグサの話が終わった所で。
「…あらやだ。アナタに作家の才能があるとは思わなかったわ」
全く信じていない口調で、レグサの話の感想を纏めた。その言葉に、相手がにやりと笑う。
「一貫性を持っている時点で現実味を帯びていると思うけどね?」
「…だからといっても、限度があるわよ」
「限度?何を持って限度とするんだ。時計塔ですら、僕らの概念はまだ終わりを告げていないと言っているくらいなのに」
「それとこれとは話が…ああもう、ややこしい。良いわよ、分かったわよ。その、なんていうのか、生きてる時計が違うだの、セカイがどうだの、それさえあればトーイガノーツの線路を剥がせるだの、その物語みたいな話をとりあえず、そのまま飲んであげるわ。…それで?アナタ、その話をもっと彼に、具体的に話して貰いたいって言うけど、聞かせて貰ってどうするの?」
「うん、暫く、彼の知識と、トーイガノーツにある文献を、出来る限り比較してみようと思うんだ。時間が違えど、物質的な事が似通っているみたいだからね。…似通っている別時間の比較なんて、とんでもない事が可能になれば、これからきっと、僕が考えていたよりも、もっと凄い事が起きる―――そんな予感がしない?」
「はぁ…アタシには良く分からない話ね。それよりアンタ、この子が目を覚ました時の事、ちゃんと考えてるんでしょうね?ほとんど誘拐したものよ?警戒されたら話を聞くどころじゃないからね?」
「ははは、それは大丈夫だよ。適当に言い訳でっち上げるから。大丈夫だいじょうぶ、彼、ちょっと抜けてるから誤魔化せるって。…けど、起きるのが遅いな。もう何時間も経ってるんだけど」
話の途中で、レグサが少年の顔をふと覗き込んだ。
まだ年若い少年は、先ほどからレグサの膝に落ち込んだままぴくりともしない。
そのことに少し危惧を抱いたのか、レグサが、ぺちぺちと、少年の頬を軽くつつき始めた。
しかし、少年は相変わらず沈黙したままだ。よくみると、額に若干の皺を寄せている。
眠っているとはいえ、此処まで微動だにしないと、アガサも様子の見方が変わってくる。
まさかと思うが、眠っているように見えるあけで、この少年は今大変な事になっているのでは?
「ねぇ、この子大丈夫?アンタ、盛った薬の量がやばかったんじゃないの?」
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