まだ痛む尻を摩りながら、予測不能の動きを見せた知人をぎろりとにらみ「ちょっと!」と、怒りの声が上げる。
「あははは!まにあったー!」
「まにあったー、じゃないわよ!遅刻した上にアタシのこの扱いはなんなの!?」
「いやぁ、ごめんごめん!ちょっと色々あってね!」
「色々あってで説明つくなら言葉なんていらないわよ!…って、あら?」
怒りの言葉を追加で浴びせようとしたが、ふと、転げた彼の脇に「何か」が同じく転がっている事に気づき、目を丸くさせて視線を落とす。
笑い過ぎて息が上がったらしいレグサが、ぜい、ぜいと呼吸を繰り返す。
その隣で転がっているのは、彼よりも背丈の低そうな――待って、背丈が低いってなに?
「ちょ、ちょっとレグサ」
「なんだい?」
「…それ、誰?」
自分の言った言葉が擬人している事に多大な不安を抱えつつ、それを持ち込んだ本人に疑問として飛ばした。すると、レグサは、大変あっけらかんとした顔で。
「ああ、担保として持ってきたんだ」
それ。いや、…目を伏せて転がる「人間」を指し、さも当然そうに主張した。一瞬言葉を失い、次の瞬間、奇妙な呻きが自分の喉と咥内を支配する。
「ままま、待って?担保って…え?どういう事?アタシにも分かるように、できるだけ手短に説明してくれる?」
「手短に?うん、そうだね。手短に説明すると…とあるパン屋が負債を抱えて潰れそうになっててね。そのパン屋が、数店あった支店を経営整理して、本店だけ残そうって話になったらしいんだけど、そこへ僕が華麗に登場して、出資して、支店の整理を食い止めてあげたんだよ」
「へぇ?よくある話ね。それで?今の説明が彼となんの関係があるの?」
「いや、彼がその、整理対象になってた支店で働いてたんだ」
「…ああ、もしかして、前い言ってたお気に入りの彼?」
「そうそう!彼、お仕事が無くなりそうで困ってたから、僕が代わりにお金を出して、かっこよく助けてあげたわけ」
「まあ、それは大変な美談ね?アナタにそんな善意が存在するとは思わなかったわ」
「そんな訳無いだろ?死にかけに水をやってやった代わりに、それ相応の物は頂戴してきたよ」
「ふうん?…ん?頂戴してきたって、あれ?ちょっとまって。どうして彼の為にお店を助けたのに、その彼が此処にいるの?まさか、店を立て直した代わりに貰ってきたものって…」
「彼に決まってるだろう!」
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