聞いているだけなら面白い事けれど、自分の事としてみれば、なんて面倒な事だろうと思う。

投資の仕方も楽しみも、感性はバラバラなんだろうなと、投資家と話していると良く思う。

それでも、自分達は同じ生業として成り立つのだから、なんて器用な生き物なんだろうとも思う。

「勉強から始めるなんて、面倒なことね?」と、からかい交じりに言ってみるが、相手は、笑いながらも、口調は真剣そのものだ。

「そうでもないよ。それに僕、興味のある本を読むのは大好きだからね」

「やだやだ。アタシは感性重視なのよ。読書なんてまっぴだらし、面倒事は余計にごめんだわ」

「ははは、君、将来僕の部下にならないかい?やり方が逆の人間の下につくとより発展すると思うんだよね?時計塔になった時、優待遇でもしようじゃないか」

いきなり何を言い出すかと思えば。これは、そこそこ好かれているらしい事を喜ぶべきか、笑うべきか、それとも、冗談と流すべきか、冗談を返すべきか。

うん、一番最後ね。

「自分が時計塔になる事を前提に誘ってくるなんて、とんでもない事ね?ま、口説き方は悪く無かったから、考えておいてあげようかしら?」

「それは光栄なことだね」






―――現在。

「ふっはぁ…っ」

一日の内、最も空気の冷える時間帯が過ぎ去り、漸く体温に馴染む熱を孕みだす、朝の十九時。アガサは間抜けた欠伸と背伸びをしながら衣装時計をちらりと覗き見た。

もう少し前に確認した時はきっちり十九時を指していた分針が、既に九の数字、四十五分を意味する場所まで降りている。

次いで、背後の列車を振り返りながら、まったく何でこんな場所で立ち呆けなければならないのかと、口には出さず文句を綴った。

此処は三番街中央駅、特二番口。いわゆる、私用列車の乗降口だ。それも、アスタの私用列車専用の乗り合い口。

既に列車は到着し、アガサの目の前で今か今かと出発に向けて待機している。

そんな状況で、アガサが何故中に入って柔らかい椅子に身を沈め、出発をのんびり列車と共に待機しないかといえば、此処で、人と待ち合わせの約束をしているからだ。

それを、今も律儀に守っている訳なのだが、肝心の相手が、時間になってもやってこない。

約束の時間から既に十五分が経過している。列車が出発するのはこれより十分後になるので、そろそろ姿が見えなければ不味い時間にまで差し迫っている。

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