―――前日。
「…驚いた。アナタ空じゃなくて、トーイガノーツの地面の下に、列車を走らせたいの?」
麺を放り込んだスープを完食し、まだ食べたりないというレグサ(前から思ってたど、見た目より良く食べるひとだ)に違う料理を持ってこさせ、自分は晩酌を始めた最中、まるでツマミのように語った彼の「事業計画案」とやらに、目を瞬かせる。
この事業計画にかかるのは、今アスタの投資家の中で最も注力されている「時計塔の選出」だ。
現在病床に臥せり始めたアスタの天井が完全に消えてなくなる前に、次世代の芽を決めておこうという、真面目に言えば試験であり、不真面目に言えばお遊びだ。
アガサは自分が時計塔になる事に全く興味が無い。しかし以前から、話を「聞くだけ」なら、面白いと思っていた。
その乗りで、アガサは事業計画についてレグサにも内容を尋ねた訳だが、その内容が、アガサの想像と見聞以上に突飛だった。
聞いた話で大概よくあるのは、かつてトーイガノーツに線路を走らせる事を成し遂げた、その中でも特に大きな私組織である「中央列車」が、次にかかる「事業計画」に乗って、そこから多様化に走ろうとする話だ。
「飛ぶ列車」を、中央列車が真面目に作ろうとしている事自体、突飛だと思っていたのだが、その線を走らなくても驚くことがあるとは、さっきまでの自分では知り得なかっただろう。
「地下に部屋を作る技術があることは前から知っていてね。アスタが中央列車に全面融資をするって話が決まった時、これはいけると思ったんだよ。そっちに強い奴に聞いたら、いけるだろうって言うから猶更いけるかなって。で、アガサはこの話、どう思う?」
「どう思うって…まぁ、実現出来たら凄いわよねってとこ?」
「なんだかふわっとした意見だなぁ」
「うーん、だってね?そんな見たことも聞いた事も無い事を想像しろって方が難しいのよ。理解はできるけどね?」
見たことも聞いたことも無い事に、判断だけで「はい」と「いいえ」を決めつける事は難しい。
その意図を理解したレグサが「ああ、まぁね」と、素直にアガサの意見を受け取めた。
「そうだね、僕も、いけるとは思ってるけど、まだ完全に実像が組めてる訳じゃない。実際に動くよりも前に、知識と、補足と、もっとしっかりした自己解釈が要ると思うんだ」
「ま、それはそうでしょうね」
「という訳で、僕、二十七番街に行く予定なんだ」
「二十七?それって、特治(とくち)街のこと?あの、本がいっぱいある?」
「うん、そう。あそこなら良い資料がいっぱいあるからね。暫く籠ってみるよ。それに、もう暫くすれば二十七番卿(きょう)が戻られるらしい。アスタの名前で、最高文献の協力が仰げないかと思ってるんだけど…」
「…ふうん」
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