「今日、食事がしたかったのは本当なんだけど、実は、他にね、君に頼みたい事があるんだ」

「な、なんですか?」

ふと、此処に来る前のツララギの言葉が蘇った。

…僕と今から寝てよ。とか言われたらどうしよう。絶対無理だけど、お店の為になんとかしないといけないのかな。

というか、此処に来る前はそんな事まで気が回ってなかった。今更ながら、何を要求されるのか怖くなってくる。

ツララギが隣に居て良かったと、今、物凄く思った。

咄嗟にツララギの方に手を伸ばしたが、その手が彼の身体にぶつかった時、あれ?と、素っ頓狂な声が出てしまう。

「つ、ツララギ…?」

てっきり、隣でまだ酒を飲んでいるかと思いきや、先ほどまで元気に喋っていたツララギが、机に突っ伏して寝初めてしまったのだ。

ぐうぐうと、大変無防備な顔を曝け出している。

「おやおや、お友達、随分ぐっすり寝入っちゃったね?高いお酒の飲みすぎかなー?」

えええ!?と、予想外に驚くサノトの肩を、ぽんと、レグサが触れる。

「ひっ」と、揺れていた不安が、一気に跳ねた。

「ねぇ、サノト君」

「は、はい…?」

「頼みたい事ってこれなんだけど、ね、君はこれを見てどう思う?今日はそれを聞きたくて来たんだ」

震えた声を出したサノトだったが、その心配は予想を越えた場所に転がっていった。

レグサが、鞄から何かを取り出し、するすると広げて見せたのだ。







「え?どう思うって…これなんですか?」

片手を広げたくらいの大きさの紙に、大きな丸がふたつと、大量の線が引かれている。

「あれ?もう眠くなって来ちゃった?これ、トーイガノーツの全体地図だよ?」

…これ、地図なのか。前に見た住宅地図とはずいぶんと様相が違う。これ自体が記号のようだ。

「これを見てどう思う?」

「はぁ、線がいっぱいあるなぁって」

「そうだね、線路がいっぱいあるね」

あ、この線、線路なんだ。どうりでたくさんあると思った。

ゆっくりと、見たことの無い物の理解を深めて行くサノトに、レグサが「これをどう思う?」と、再び質問を投げかけてきた。

いや、どう思うって言われても、何がどうなってるのかも分かってないんだけど。

「実はね、今度アスタの投資家の方で、列車事業に投資と、事業拡大の助成をする事になったんだ、それで、これは僕の意見なんだけど、今後、僕は地面の下を掘っていこうと思うんだ」

「地面の下、ですか?」

「そう、広くは知られてはいないんだけれど、地下を掘る建造技術があってね、それを応用すれば出来ると思うんだ、地下にも線路を延ばして列車を走らせる、地上にはもう線路が溢れているからね、作ったとしても事業的な伸び代が薄い、地下なら、地上と同じ距離分の利益が、また見込めるだろう?」

レグサの話に、サノトは「ああ、そうですね」と答えた。途端、レグサが目を見開いてサノトを見る。

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