「どうだい君?男なら銀を詰むくらいの気概は持ちたまえよ、黒が高いままで満足してたら、人生は一生黒いままだよ?」
「うおおお!畜生!悔しいけど超納得するわ!投資家の金の使い方、ほんとやべぇ!」
ツララギが一頻りはしゃいだ声を上げた後、興奮を抑えて机に戻ってきた。
残っていた自分の酒をぐいと飲み干し、不敵な笑みで「おかわり貰っていいですか?」と、レグサに堂々と言い放った。
肝は据わってるなぁと、レグサが楽しそうに答える。
「すみませんね、貧乏人のうちは貧乏も貪っておこうと思いますんで」
「ふむ、それはそれで理に適っているね、面白いじゃないか君、はは、偶にはこういう席も悪く無いね、ほら、サノト君も飲んで飲んで!」
「は、はぁ…」
サノトも残りの酒をちびちび舐めていると、早速、ツララギが詰まれた一番上のグラスを貰って飲み干していた。
とても苦い筈なのに、それを美味しそうに飲む姿を見て、かっこいいなと憧れる。
「けどねぇ君、折角サノト君と楽しくお喋りしようと思ってたのに、そこだけは邪魔しないでくれるかなぁ?」
「お喋りしながら口説くつもりでしょ、ダメですよ?こいつ、ちゃんと彼氏がいるんですから」
「…え!そうなの!?」
レグサが、素で驚いた、みたいな反応でサノトに振り返った。
いや、一応居るけど、どう返したら良い物か。
「そんな気配ぜんっぜんしなかったのに、なんで彼氏いるのにそんな独り身っぽい雰囲気出せるの?凄いねサノト君!」
…これも、俺、褒められてるの?けなされてるの?
「あ、じゃあ、これもしかして婚約首輪?」
レグサがサノトの首に目をつけて、巻き直したリボンをそっと手に取った。
紐の端が、く、と、細い指にひかれる。
「ああ、はい」
「ふうん?解け易そうだねぇ、気を付けなよ?」
「ああ…はい」
皆の反応を見てると、紐を首輪にするってのはよっぽど珍しい事なんだな。今更ながらに、ちょっと恥ずかしくなる。
「ちなみに僕は、不倫でも一向に構わない」
「やめてください」
「最低だな」
「うん、良く言われるー!」
その内、食事も運ばれてきて、それをつまみに飲み食いが始まった。
ツララギが居るお蔭かレグサも何時ものようなセクハラはせず、時折サノトに絡んでは、ツララギに止められて、面白そうに笑っている。
しかし、暫くしてからレグサが「さて」と雑談を締め、それから「サノト君」と、凛とした声で名前を呼んだ。
不意打ちに、不安がどきりと跳ねる。
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