「どーして、君が同席しているのかな?」

「どーもすみません、なんか?友達が怪しいお誘い受けちゃったみたいで、付き添いにきましたー、自分の分は自分で出しますんでお構いなく、なんなら同席料払います?」

「ははは、たけぇぞ?」

「ははは、上等だ」

二人は暫く、サノトを挟んで睨み合っていたが、その内レグサの方が目を逸らすと、嫌々な口調で「まぁいいか」と呟いた。

「おお、気前が良いじゃないですか」

「こんな事で時間を潰す方がもったい無いからね」

「さすが投資家ですね、…そういえばなんでこの前は、その制服、着てなかったんですか?」

「ああ、これ?これね、着るのがちょっと面倒なんだよ、だから普段は別のもの着てるんだけど、知り合いがさー、制服で行けばサノト君にかっこよくみられるんじゃない?って言っててさー、メンドクサイけど着てみたら、中々良い具合になったね、今度彼に奢ってやろう…ま、それはさておき、おーい、ちょっと、この二人に銀でも持ってきてあげて」

レグサが店の奥におざなりな声を掛けた途端、ツララギが「まじで!?」と、一転した声を上げた。

なんだかとても嬉しそうだ。

「まじか…っ!こんな所で銀が飲めるとは思わなかった!」

「銀ってなに?」

「え?ああ、急に声上げてごめん、銀ってね、お酒の中でも相当高い部類の酒なんだけど、製造量が少なすぎて、それ用の登録証持ってる奴じゃないと飲めないんだよね」

「ええと、つまり、お金払えば飲めるものでも無い、ってこと?」

「そうそう!俺も登録欲しくて何回か書類応募の挑戦してるんだけど、毎回抽選落ちでさー」

べらべら、興奮気味にツララギが喋っている内に例の銀とやらが向こうから運ばれてきた。

小さなグラスに、透明な液体が半分程注がれている。見た目だけでは何の変哲もない液体に見える。

それを目の前に置かれた途端、ツララギが感嘆の声を上げて手に取った。

レグサが「サノト君もどうぞ」と言うので、おそるおそる、サノトも手に取ってみる。

口にすると、透明な液体は想像以上の苦みを伴っていた。

う、と舌を出しかけたサノトとは違い、ツララギが「うまい!」と隣で叫ぶ。

「ははは、なんだ、君も中々現金だね」

「仕方ないですよ、抽選の倍率やばいじゃないですかこれ、取引先で偶に飲めるくらいだしな…ていうか、飲めないのに何で登録証持ってるんですか」

「そりゃあ君、交渉する際の武器は常に携帯しておくものさ、例えば、こんな風にね?」

突然、レグサが立ち上がって指を鳴らした。傍に寄ってきた店員に「銀、積んでくれる?」と耳打ちする。

すると、店員が一瞬だけ驚いて見せたあと、素早く店の奥へと戻って行った。

暫くすると、布を被った配膳台が運ばれ、机の一歩前に寄せて止められた。

その布を、以前来た時に見かけた初老の男がはぎ取ってみせる。中には、たくさんのグラスが三角の形で詰まれていた。

その上から、男が何かの瓶を傾けて、上から下へ、零れる形でグラスの中身を注いで見せる。

途端、ツララギが「すげぇ!」と興奮しきった声で立ち上がり、配膳台に近づいた。

「―――…、あれ、レグサさん、今」

「え?どうかした?」

ツララギが立ち上がった瞬間、レグサが机に振り返った気がしたのだが…気のせいか。

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