理由を知らないツララギが不思議そうに聞き返す。
そういえば、説明をしそびれていた店の潰れなかった理由と、そこから、サノトがあの店で食事をする事になった経緯を、なるべく簡潔に語った。すると。
「…サノト、彼氏さんはどうしたの?さっきまで一緒だったよね?」
急にアゲリハの所在を聞かれ、目が点になってしまった。
なんでアゲリハ?今の話に関係あるの?
「いや、先に帰れって言って帰したけど…」
「今から何しに行くか、何処に行くかも、ちゃんと言ってから帰した?」
「えっ、…いや、面倒になりそうだったから、誤魔化して帰したけど」
「…タイミングが悪いだろ」
ツララギがぼそりと何事かをつぶやいた後、真剣な顔つきで「俺もついていくよ」と言った。
サノトが有無を言う前に、一度店の中に戻ると、鞄と鍵を持って外に出る。
「え、え?ツララギも行くの?」
「おー、…まさか、あいつがアスタの投資家だとは思わなかった、サノト、ホント、変なのに目をつけられ過ぎだろ」
「???」
「アスタの投資家は趣味の悪い男が多いって、よく聞くしな」
「どういう意味だ…?」
「うん?サノトが今から、なにかの拍子に、例の投資家にぺろっと食べられないか、心配だって意味」
「………ははは、いや、そんな事」
……そんな事ないよね?
無いと言ってくれ。じゃないと、怖すぎて行きたくなくなってきた。
結局またツララギが送ってくれる事になり、ツララギが用意した自動二輪車の後ろにまたがって、静かな夜を轟音で横切り、目的地へ向かった。
数十分後、例の店に辿り着く。もう日付の変わる時間に近いにも関わらず、店先にはほんのりと明りが灯されていた。
自動二輪を適当な場所に停めると、柔らかい照明の下、ぼんやりと浮かび上がる扉の中に二人で入って行った。
扉の向こうは、前に来た時とは違い閑散とした雰囲気に満ちていた。
人の声はなく、掛けられた音楽と、混ざるノイズの音量が全域をしめていた。
見渡すと、奥の座席でレグサが飲み物を口にしている姿を見つけた。
ああして、黙って足を組んでいれば、大変様になる男だ。
その様も、こちらの姿を見つけて「サノトくーん!」と、愉快な声に相好を崩せば、このざまだが。
「あの…どうも」
「待ってたよー!座ってすわって!」
隣にツララギが立っているにも関わらず、レグサはサノトのみを招いて隣に座らせた。
おざなりにされたツララギに慌てて振り返ろうとしたが、それよりも先に、どか!と、サノトの隣にツララギが無造作に腰をかける。
流石に、レグサがぴくりと反応して、ツララギの方を訝し気に睨み据えた。
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