「あ、貴方!本気ですか!あんな冗談事で、本当にウチの店を…――!?」

「あ?うるせぇな」

「む、ぐ…!?」

「なんだその目は、人が折角丁寧に終わらせてやったのによ、―――おい、豚野郎、僕のお、か、ね、いるのか、いらねーのか?」

「ひ……っ!」

「ははっ、自分可愛さに保身を図った肉には似合いの悲鳴だな、えらそーに、ひとの動向、値踏みしてんじゃねぇぞ?腐っても商売人なら、アスタがはいと言えばお前もはい、そうだろ?」

「は、はひ…っ」

「おい、とっととこれに判を押せ、そうすりゃお前も、今日から晴れて畜奴の足踏みだ」

「………っ」

「ようこそ?アスタリスクへ」





喜びが余韻するような、ふわふわとした気持ちのままバスに乗ってツララギの店に向かうと、近くのバス亭で待機していてくれたらしいツララギが、バスの中にいるサノトの姿をみかけた途端慌てて駆け寄ってきてくれた。

昇降口で「おそかったな!」と、心配そうな声で出迎えられる。ごめん、と呟きバスを降りた。

「なに?オギさんと色々話し込んできた?まぁ、そんなに気落ちするなよ、こういう事も経験のひとつだろうし…」

なんなら、次の仕事先は俺の方で、と、何時かに聞いた台詞を続けようとするツララギの言葉を、首を振って遮る。

「あの、さ、その、…店のことなんだけど」

「うん?」

「なんか、潰れなくなったっぽい」

「…え!まじで!?」

「うん、色々心配させてごめんな」

「それは全然かまわないっていうか、良かったな!けど、どうやって…って、あ、そうだった」

二人で歩きながら喋っている途中、店の手前くらいでツララギが苦々しい声を浮かべた。

どうした?と尋ねる前に、すっと、ツララギが腕を上げ、自分の店の方向を指さす。…いや、正確には。

「ごめんサノト、あれ、なんとかするって言っといて、なんとも出来なかったんだよね」

「………」

ツララギが、あれ、と指差したのは、今朝と同じ場所に同じ格好で蹲ったアゲリハの姿だった。

すげぇ、朝から位置が微動だにしてねぇ。

「話かけても無視されるし、偶に姿消すけどやっぱり同じ場所に戻ってくるし、退いてくれないし…蹴る訳にもいかないし、けど、店先にずっとアレは迷惑だし、どうしたらいいかなぁ?」

「いや、とりあえず、うちのペットがご迷惑をお掛けしてすみませんでした、…俺の方で回収します」

「そう?ありがとー」

おお、やっと動くな?みたいな明るい声を上げ、先に戻ってるねーと手を振り、ツララギが店の中へと入って行った。

隣を歩き去ったツララギに目もくれず、アゲリハ一向に動く気配を見せなかった。なんか、ああいう置物みたいに見えてきた。

けど、置物だろうと、あんな邪魔な物を延々と友達の店先に置いておくのは迷惑極まりないな。ほんとに。

…まぁ、そろそろ良いか。今、気分が良いし。

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