「何々ー?楽しそうな話してるねー?」

―――かつん!と、小気味良い音が箱の外から中へと響いて来た。

それを追うように、間延びした声が聞こえてくる。

遅めの客が来店したのだろうか。しかし、もう閉店の準備に入ってしまっているので対応は出来ない。

お互い手を離し、客にお引き取り願おうと振り返った時。

「……アスタの投資家っ、」

「え?」

オギが息を飲みこみ、目を戦慄かせて何事かを呟いた。

その視線の先には、いつの間にか箱の中に入ってきていたレグサの姿があった。

普段来店する時間よりも、更に遅い時間に現れた彼は、その格好までもが何時もと相違していた。

目を引く襟の高い上着に、装飾の凝った服、胸元には、とても大きな時計が吊り下げられていた。不思議な威圧を孕んだ服装だ。

「ご主人」

レグサは、何時も携帯している細身の傘を杖のようについて、オギの目の前にまで近付いて来た。

それまで、茫然と固まっていたオギが、はっと我に返り、ついでに「はい!」と声もひっくり返す。

「申し遅れました、僕はレグサと申します、この制服でお分かりでしょうが、アスタに在籍しております」

「は、はい…!」

「失礼は承知で、少々立ち聞きをさせて頂きました、――何でも、この店が潰れるとか?良ければお話をもう少し伺っても宜しいでしょうか?」

「え、ええと…っ」

初対面では無い筈なのに、オギは普段以上に畏まって、レグサに請われるまま状況の説明を始めた。

頷いたり、時折問い質したりしながら、やがてレグサが「ふむ」と呟く。

「そうですか、こちらの店の本店が業績不振になり、支店が全て資産と資金整理の為、閉店対象になったと…分かりました、ご丁寧な説明有難う御座います」

「い、いえ…」

「ところでご主人?その本店とやら、今すぐに話を通す事は可能でしょうか?」

「へ…!?」

「いやいや、大したことではありませんが、―――出資の件で、僕から少しお話が」

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