その脇を駆け足で通り、奥にある電話を手に取ると、覚えて間もない番号をかける。

暫くして『はい』と、アパートの管理人の声が受話器から流れてきた。

「――あ、管理人さん!あの、三階四号室のサノトです!今、隣の五号室のセイゴって部屋に居ます?居たら繋いで欲しいんですけど!」

サノトの突然の剣幕に、管理人は若干引いた雰囲気を醸し出しつつも、丁寧な対応で一度電話を置き、数分後、『どうしたのー?』と、不思議そうなセイゴの声と代わった。

居ない可能性もあったけれど、今日は丁度部屋に居たようだ。しめたっ!

『珍しいね、僕に電話してくるなんて、アゲリハ様の様子でも聞きたいの?』

「ちがうんだ!あの、あのさセイゴ、ちょっと聞きたい事があるんだ」

『え?なに?』

「セイゴって、蝗ってところで仕事してるんだよな?」

『うん?まぁそうだけど、いきなり今更、なに?』

「…なぁ、セイゴ、お金って、どうすれば借りられるんだ?」

『動力のお金のこと?それなら、見つけた時に物を差し押さえてくれればこっちで処理するけど』

「違うんだ!そうじゃなくて!実は…っ」

いまいち会話が噛み合わないセイゴに、事の経緯を説明する。

最終的には店の為に金が借りられないかと締めくくると、数秒、セイゴが黙り込んだ後「だめだね」とあっさり断られた。

「そんな!動力に金出してくれるんなら、それこそ店の方だって…!」

『事情が違う』

動揺しているサノトとは違い、セイゴが淡々とした口調で答える。

『それは君の婚約者が蝗側の人間で、君の問題が組織内の事として認知されているから、融資として契約されているんだ、けど、君の働いている店が傾いて、それを助けて欲しいっていうのは、君と赤の他人の話だから、いくら君がアゲリハ様の婚約者でも融通はしてあげられない』

良ーい?と、何時になくセイゴが真剣に語るのを、サノトは息を呑んで聞き入った。

『そもそも、潰れるならそれ相応の価値を店側が無くしたってだけの話だよ、価値あるものには、例えどんな事情が降りかかっても、お金は流れていくものだからね、新鮮な血管と同じだよ、その仕組み自体を、仮に今の話を僕が同情しても、どうにかしちゃいけないよ』

というわけで、ごめんね?と言って、縋った電話はいとも簡単に切られてしまった。

残ったのは、未だ受話器を片耳にあてて、茫然とするしかない、サノトの姿だけだった。

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