とりあえず店を開いたは良いが、自分もオギも常に上の空だった。

会話は必要最低限で、普段はしないようなミスも多く、品目を間違えて客に怒られるというのも、頻繁に起こった。

それでも目が覚めないような気分のまま、いつの間にか休憩時間に差し掛かってしまう。

貰ったまかないを、味気の感じない口腔で、もさもさ頬張っていると。

「―――あ、おーいサノト!今休憩?丁度良かった!あのさー、彼氏さんなんだけど…って、おいおい、どうした」

「…ツララギ」

「大丈夫か?顔が真っ青だぞ」

焦点の合わないサノトの目前で、ツララギがひらひらと手を振って見せる。

かろうじて「うん」と頷くが、「どれに頷いたんだよ」と呆れられてしまった。

「いや、あの、休憩の部分に…」

「そこはもういいよ、それより、ホントどうした、お前、様子がおかしいぞ」

「えっと、俺は、別に、ただ、店が潰れることになって」

「……おいおいおい、ちょっと待て、そこ、ゆっくり話せ」

どかっ!と、サノトの対面に座ったツララギが、ちぐはぐなサノトに状況の説明を促してきた。

それをまた、ちぐはぐ説明すると、思考も器用に出来ているらしいツララギが「あー…」と、複雑そうに納得した。

「そうか、オギさんの店の本店の売上が悪い所為で、他の店が整理されんのな、まぁ、幅広く店やってるとそういう事もあるよね」

「そう…なんだな」

「けどなー、オギさんの店美味しいから潰れるのやだなー、なんとか本店の方で蝗から金、借りれないのかな?せめて、オギさんの店だけでも残らないかなぁ」

「…いなご?」

聞き覚えのある単語に疑問を食いつかせると、ツララギが「そりゃそうだろ」と当たり前のように言った。

「金が無い時にどうにかするって言ったら、蝗に借りるしかないだろ」

「いや、蝗って…?」

「…あ、そうか、サノトの、えーと、セカイ?には蝗が無いんだな」

「いや、金を借りる所はあるんだけど、蝗って名前では無いんだ、蝗も名前だけは知ってるんだけど、なにするところなの?」

「なにするところって言われると、やってる事が広すぎて説明しにくいな…とにかく、トーイガノーツで金を借りるってなると、蝗に頼むものなんだよ、あとはまぁ、投資家って手もあるけど、支店を持ってるような規模だと、個人投資家の出資程度じゃちょっと、額がね、そもそも、そんな伝手あるなら不振になる前に頼ってるだろうし…ま、要は、金が無いなら蝗に貸して貰えるといいねって話」

「それって、蝗に頼めばどうにかなるってこと?」

「ま、そうだね、でもサノトには関係ない話だよ、それより、次の仕事どうするんだ?もし良ければ俺の伝手で紹介でも…って、うお!!サノト!?」

「ご、ごめん!ちょっと急用が出来た!」

慌てて立ち上がると、ツララギに一礼してから急いで箱の方へ向かった。

オギは丁度レジの方に行っているらしく、中では具材が中途半端に並べられていた。

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