「あ…サノト君、すみません、僕、気が付かなくて…」

「いえ、そんな事より!大丈夫ですか!?具合が悪いんですか!?」

なるべく、相手の身体を揺らさないよう気を付けながら問い質すと、再び黙り込んだオギが、ぎゅ、と唇を噛み、次いで「違います」と答えた。

「じゃあどうしたんですか?オギさん、今日変ですよ?」

「…それは」

「どうしたんですか?何か悩みとかですか?俺で良ければ…」

話くらい、と言いかけた所で、突然オギに力強く肩を掴まれた。

吃驚する間もなく「ごめんなさい!!」と叫ばれ、呆けてしまう。

「ごめんなさい!サノト君ごめんなさい!」

「いえ、あの、何が…?」

「お店を閉める事になったんです!!」

「……ええ!?」

予想だにしなかった言葉に一言叫んでから、く、と息を呑んだ。

ふわっと、かいた汗がどんどんと量を帯びていく。

「急になんで…!?」

「今朝、連絡があったんです…!本店の方が業績不振になってるって、今までそんな素振りも通達も、全く無かったのに、いきなりこんな…」

「そ、それで!?」

「…それで、本店以外、全店閉店する事になったそうなんです、僕の店も、連絡通りなら、数日後には閉める事に…」

「…そんな」

気落ちするオギの言葉にあてられ、サノトもどんどんと言葉色が青くなっていった。

暫く二人で、重い空気の中黙り込んでいたが、その内オギが「本当に、申し訳ありません!」とサノトに向かって思い切り頭を下げてきた。

「サノト君、あんなに一生懸命働いてくれてたのに!頑張ってくれてたのに!…どうする事も出来なくて、僕、本当に申し訳なくて…!」

「や、やめて下さい!頭上げて…!」

椅子から降りて、這いつくばるような格好になったオギの身体を慌てて押し直す。

ふと顔を見れば、オギは今にも泣きそうな顔をしていた。オギらしくない様相だ。

その顔に動揺し、思わず「オギさんはどうなるんですか?」と、余計な事を聞いてしまう。

「…一応、本店に戻る予定なんですけど、実際、負債を抱えているのは本店なので、戻ったところで…」

「………」

「実を言えば、なにか変だな、とは思ってたんです、元々経営分離主義の店なので、今まで他店に干渉するような事はなかったんです、けど、他店の品目を調査に来たのは、店が潰れる前に、少しでも利益の打開策を見込んでの事だったんですね…、今回の事は初めから、僕の違和感よりも、もっと大きな事の前触れだったんだ」

「でも!まだ可能性の話ですよね!」

段々と声が小さくなっていくオギの声を咄嗟に遮る。オギが、はっとした様子で顔を上げた。

「向こうのお店が潰れてオギさんがどうかなっちゃうって、まだ可能性なんですよね!?絶対じゃないなら、まだ大丈夫ですよ!」

「サノト君…」

「そう思いましょう!暗くなってるより全然良いです!えっと、とりあえずまだ此処も、今日直ぐに潰れる訳じゃないんですよね!?だったら、開店の準備をしましょう!」

「……あ」

サノトの根拠のない、思いつきの励ましに、ありがとう、と、オギがか細く呟き、そっと顔を伏せた。

その下に数滴の水が落ちたのを、サノトは見逃す事が出来なかった。

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