ずれた眼鏡を大げさに押し戻してから、レグサが、す、と器の端をなでつける。

「これの凄い所は、既存のもの、つまり、ソレ用に作られていないものを即席で組み合わせてもこの完成度という事だ、此処まで言えば分かるだろう?」

「…あー!成程!これ、初めからこの形で完成するように作れば、余計に美味しくなるってことね!」

「そうそう!伸び代がでかい上にこれ自体の既存の物が無い!加えて活用のふり幅が大きいんだ!これには専用の店どころか工場を建てられる、利益の可能性がふんだんに含まれてるんだ」

「へぇ…相変わらず変な所にばっかり鼻の利く人ね」

いい意味でも悪い意味でも感心していると、レグサがまた「違うよ」と言って否定した。

「これ、僕が思いついたんじゃなくて、さっき言ってた彼の意見なんだ」

「…え!そうなの?」

「そう、まぁ、工場だの利益だのは勿論僕の意見なんだけど…彼ね、面白いんだよ、何処にでもいそうなフツーの雰囲気なのにね、時折、何かの改良や改案点を会話や動作の中で見せてくるんだ」

「ふーん?」

「ねぇアガサ、僕、今度の事業計画の事、彼に意見を聞いてみたいんだ」

ふうん、と、言いかけ、がちゃん!と器を机に置いた。

音の大きさに、店の誰かが振り返ったが、レグサはぴくりとも動じない。

「まって!アレ機密事項よ!?その彼って子、一般人よね!?」

「それがどうした、事業計画というのなら、そもそも視野は広く上手く見積もるものだろう?わざわざ隠しておくほうがどうかしてるよ」

「そういう問題じゃないでしょう!?それに、さっきの話はアナタが上手く見繕っただけで、彼にはまぐれだったかもしれないでしょ!?」

「いいや?僕は二回起きた事は三回起きると信じる性質なんだ、それに、彼と出会った日は雨が降っていた、僕の人生は、経験上、雨が降った日に特別な事が起こるんだよ」

「ふうん…?」

「さーて、ちょっと口説き過ぎた所為で警戒されちゃってね、中々彼との食事にありつけないんだ、どうしよっかなー」

「…ねーぇレグサ、今更だけど、この話アタシにしても良かったの?」

色々な問題を孕みまくっている案件たちだが、ひとたび目を瞑れば相当な旨味を含んでいるのは分かる。

自分も半端なりに投資家だ。情報は金である。それを同業者にらんらんと語る神経が分からない。

そんなこちらの思惑を他所に、レグサは「ああ」と手を叩いて、明るい声を出した。

「僕、お喋りだからさ、自分の考えた事とか色々溜め込むの無理なんだよ、だから私用列車で話いっぱい聞いてね?同じ予定運行で乗るんだろう?」

「あらあら、今度はアタシとヤりたいの?相変わらず節操がないわねぇ」

会話を性行に見立て、普段の彼の奔放さを合わせて若干の嘲りを見せると、それをどう受け止めたのか、レグサが「面白い例えだ!」と喜んで答えた。

「そうだねアガサ!僕が楽しくて問題無ければ、相手なんて誰でも良いよね?」

46>>
<<
top