もう一度口にしようとして、…そういえば、これ自体を知らないなら名称では分からないよなと、改めた説明に切り替えてみる。
「え、ええと、こう、捨てられる容器に、麺と汁を乾かしたものを入れて、それを持ち帰って、お湯とかを入れて戻す、みたいな…うわっと!」
「…おいおい、それ店と工場がいっぺんに建つぞ」
突然両肩を掴まれ変な声が出てしまう。レグサといえば、綺麗な瞳を限界まで見開き、ぶつぶつと何事かを呟いている。
段々、肩を掴む力が強くなっているのが妙に怖くて、助けを求めてツララギを見るが。
「お、ほんとだいける」
何時の間にか自分の分で汁麺を作ったらしく、呑気にそれを食べていた。
そんなことしてないで助けてくれ!
「は、はは」
その内、サノトから漸く手を離したレグサは、笑いながら椅子の背に背をつけた。ある程度そうしてから、一転。
「……ブッハハハハハハハッハハハハハ!!!」
突然、とち狂ったような大音量で笑い叫び始めた。
腹を抱えて、頭を色んな場所にぶつけて、身も蓋もなく笑い叫ぶ彼の姿に、サノト達だけでなく、店に居る誰もが振り返った。
あからさまな営業妨害だが、それでも、何も言われないのは、彼がいわゆる太客という奴だからだろう。
食べ終わったらしい器を置いて、ツララギがおもむろに立ち上がった。
小声で「いこう」と言われ、慌ててサノトも立ち上がる。
こっそり場を離れるが、レグサは笑うのに夢中なのか、去っていくサノト達をちらりとも見なかった。
「も、もっと早く助けてくれよ…!」
「あの状況でどうやって助けるんだよ…タイミング見てたんだよ、タイミング」
「さようですか…」
「よし、さっさと金払って帰ろうぜ、あんなのと居ると、飲んでも酔わねーよ」
初めに自分たちが飲んだ分を支払う為、ツララギが財布を出した、時、不意に「あ」と訝し気な声を上げる。
「…あー、これの所為か」
なにが「所為」なのか。手元を見つめているツララギを覗き込むと、そこには一枚の紙幣が握られていた。
帰ってからツララギに渡した、後ろで爆笑している男から貰った例のお小遣いだろう。
「多分、これが持ち主の曰くを引き寄せたんだよ、使って無くそうと思ったのに速攻で効果を表すとか、流石、投資家の金だな」
「ははは、ツララギ、お前でもそんな冗談言うんだな?」
現実味の無い話に軽く笑って見せたが、ツララギからは一向に返事をもらえなかった。
…まさか本気で言ってるのか?やめて、本気だったら逆に怖い。
サノトの考えていることが筒抜けて見えたのか、ツララギが変な笑みを浮かべて言った。
「商売してるとよくあるよ?」
なにそれこわい。
「それより、入口が詰まる前に出ようぜ」
「…そーだね」
振り返ると、レグサの奇声に慄いて他の客が一人、二人と席を立っているのが見えた。
この勢いならば、彼と店の人間を除いて、誰一人としていなくなるのは時間の問題だろう。
閑散として、レグサが我に返る前にとっととずらかってしまおう。
店から出て扉を閉めても声が聞こえたが、自動二輪に乗って3秒もすれば駆動音にかき消されて聞こえなくなった。
何だかどっと疲れて、ツララギの背中にしがみついてしまう。疲れからか、若干の眠気も感じる。帰ったら直ぐに寝てしまおう。
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