ツララギの店に帰っても、サノトは財布とは別に入れておいた例の金をわざわざ取り出し、机の上に置いてじっと眺めていた。
…これどうしよう。返す隙もなく持ち帰ってしまったが、多分返しても受け取らないような気がしてならない。
「いらなかった?」とか言って、破り去ってしまう可能性も、無きにしも非ず。
だったら、このまま貰った方が良いのかな?いや、くれたんだから良いんだろうけど。
なんていうか、脈絡の無さ過ぎる金なので、何をしてもいまいち釈然と来ないというか…。
「サノト、それどうしたの?」
じっと、金を見つめながら黙り込んでいたサノトを見つけたツララギが、対面に座って尋ねてきた。ふっと視線を上げて、眉を下げる。
「……なんか、投資家っていう変な客に貰った」
「え…?何、どうしたの、彼氏が嫌すぎて、とうとう大事なもの売っちゃった…?」
「違う!なんか良く分からないんだけど、今日喋ってたら急にくれたんだよ!」
とんでも無い誤解をかますツララギに、机を大げさに叩いて抗議すると、「冗談だよ」と笑われた。こちとら笑えねぇって。
「けど、急に金渡されるとか不思議だね、まぁ投資家って変人が多いから、金でも捨てたい気分だったのかな?」
凄い解釈の仕方だけど、レグサを見ていると、あながちそんな日もありそうな気がしてならないような…。
暫く金に視線を落としたまま首を傾げていたが、その内、ぱん、と手を叩き、再びツララギを見上げた。
「そうだ、これ居候代にしてくれる?硝子代はまた給料貯めて払うから」
「おお、自分でまず使わない所がサノトだな、いいよー、じゃあ有難く貰うかな」
机の上で金を滑らせ渡すと、ツララギがそれを掴んで眺めた後、「しかしなぁ」と呟く。
「投資家の金か、職業柄いわくがついてそうだなぁ…あ、そうだ!これで今日、外の飯食いに行こうよ!」
持っていた金を宙に掲げて、ツララギが外食を提案する。
渡した以上もうツララギの金なのでサノトは一向に構わなかったが、それでサノトも奢って貰っては居候代にならないのではないだろうか?
と、言ってはみたが、そんな事は構わないと言われてしまってはぐうの音も出ない。…また今度、絶対何かで奢ろう。
「ちょっと良い店知ってるんだ、息抜きにどう?」
「良い店って?」
「サノトって女の子も大丈夫?」
「………」
「お!その顔は大丈夫だな?可愛い女の子とお喋りしながら美味いもの飲み食い出来る店があるんだよ、行きたくない?」
「いく」
「よしよし!ちょっと待ってろ!」
入り口付近で待機していてくれと言われたのでその通りにしていると、程なくして店の外からけたたましい駆動音が聞こえた。
よく目を凝らしてみると、暗がりから一台のバイクがこちらに向かってきた。上にはツララギが乗っている。
バイクはサノトの目の前で停止を掛け、さっさと持ち主を落として静かになった。
「…お前こういうの持ってたんだな」
「ん?ああ、自動二輪の事?驚いた?だよね持ってる奴超少ないもんね、個人的に形が好きでさ、前は仕事とかにも使ってたんだけど…ま、昼間なんか使い物にならねぇから、もっぱら迷惑しながらの夜使いだな」
「ふうん?」
「それじゃあ行くか!」
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