「けどさ、サノトやっぱり凄い愛されてるよね」
「…いきなりなんだよ」
「いやだって、話聞いてる感じそれだけ散々、見た目は好みじゃないって言われてんのに、彼氏さんサノトの事好きすぎだよね?その点については、俺、すごい羨ましいけどなぁ」
「じゃあツララギにあげるよ」
「ごめんそれはやめて……でも、羨ましいのは本当だよ、サノト、好きじゃない所もくるめて愛されてるって良い事だよ、俺だって、出来ることなら」
ツララギが何かを言いかけた時、りん、と不思議な鐘の音が部屋中に鳴り響いた。
それを聞いたツララギが「もうこんな時間か」と言って立ち上がる。
「新しい時計、一点もので仕入れたんだけどさ、綺麗な音出すから俺が気に入っちゃって、店用に使ってるんだ、どう?」
「ああ、良い音なんじゃないか?」
「流石サノト、分かってる!ま、そんな素敵なサノト君に理解があるんだか無いんだか分からない彼氏さんだけど、いまごろ凄い落ち込んでるかもしれないし、一晩で頭冷えたら早く帰ってあげなよ?」
「…冷えたらね」
「お、何々冷えなかったら俺と同棲しちゃう?それも良いかもね?サノトと居るの楽しいし」
いいなそれ。と、冗談に冗談を返そうとして。
「こらぁああああさのとぉおおおお!!」
突然、店の外から中へ、バリィイイン!!!と轟音が響いた。
その音の方を反射運動で二人振り返り、サノトは固まりツララギは「あ」と眉を顰めて汗をかいた。
「サノト!迎えに来たぞ!こんな所に居ないで私のごはんを用意しろ!!」
轟音の正体が、床に落ちた破片―――蹴破った店の窓の欠片を踏みつぶしながらこちらに歩み寄ってくる。
相変わらず固まっているサノトと、相手―――アゲリハの顔を、ツララギがひとり蒼くなった顔で見比べていた。
サノトの眼前にまで近づいたアゲリハが、迎えに来たという位なので少しは弁明にでも来たのかと思いきや、がつん!と思い切り肩を掴んで揺さぶってきた。
「大体!今回はお前が悪いのに何故お前が怒って出て行くんだ!」
琴線がふれまくりなのに、事もあろうか行き成り否定言葉で喋りはじめるアゲリハを、ゆっくり見上げて、努めて静かな声で「なにが?」と問いただす。
「何も無いだろう!私はまた男に目をつけられたお前の無防備さに気が障ったんだぞ!」
「俺が怒って出て行ったのはお前の俺に対する無遠慮な行為の所為ですけどね」
その他もろもろあるけどね。塵も積もって今なんだけどね。わかってねぇみたいだけどね。
「訳が分からないぞ!それはお前の不足の事実をお前が勝手に怒っただけではないか!そんな事はお前が生まれる前からどうしようも無いわ!」
こいつ。
こいつまじで何しに来た。
ツララギのお蔭でまぁ一晩したら帰ろうかなくらいは思ってたのに。
こいつ。まじで。ほんっっとに糞だな!!!
「………………ツララギ、すまん、絶対に硝子代返すから」
「い、いつでもいいよー?それよりサノト、目が怖いんだけど…」
「ところでツララギ、さっきの同棲話、ちょっと真剣に考えないかな?」
「わ、わーい、まじで?」
「うん、暫く居ても良い?」
「べ、べつにいいよー?」
「そっか、有難う」
にっこり笑ってツララギに手を振ると、相手が更に真っ青な顔を浮かべてから、ちらりとアゲリハの方を見た。
その視線が動く前に、がん!!と、近くにあったアゲリハの足を思い切り踏みつぶす。
いたい!!と不意打ちに悲鳴を上げた相手の、今度は腹を思い切り蹴り飛ばして立ち上がった。
あらゆる軽蔑を込めて視線を向けると、流石に空気の変化を察したらしいアゲリハが、ひく、と息を飲んだ。
「さ、さのと?」
「アゲリハ、俺今日からツララギと同棲するわ」
「え!」
「だって、お前ほんとに反省しないしな?だったら理解のある友人と同棲やってた方が何倍もマシじゃね?」
「な、何を馬鹿な事を言い出すんだサノト!!お前は私と―――」
お前となんだって?この糞が。その次なんていわせねーから。
相手の言葉が終わる前に、自分の首に手をかけするすると巻いていたリボンを解く。
それを見たアゲリハが目を見開いたまま固まった。大変珍しい反応だ。余程衝撃だったのだろう。
「これで離婚だな、はやく出て行け」
「さの」
震えながら近づいてくるあつかましい手を叩き落としてから、持っていたリボンを両手で思い切り左右に引っ張る。
ぴ、と、繊維が切れそうになった紐を、アゲリハがこの世の終わりみたいな顔で愕然と眺めた。
「何度も言わせんなまどろっこしい…、縁まで切って欲しくなけりゃ今すぐ出て行け!!」
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