アゲリハとは結構な頻度で言い合いになり、その中でも琴線の触れ方が酷い時はセイゴのところに泊めて貰っていたりするのだが、今回はツララギのところまで避難する事にした。

その度、夫婦が喧嘩して実家に帰る時はこんな気分かな、と、結婚もしていないのに考えるようになった。

アパートから飛び出し、適当な公衆電話からツララギに連絡を入れ、事情を説明してから「悪いけど泊めてくれないか」と頼むと、笑い声と共に了承の返事が返ってきた。

『じゃ、今からこっち来いよ、色々準備しておくから』

勿論だと頷き、よろしくと挨拶をしてから電話を切り、鞄の中から券を取り出してバス停に向かった。

3分程待機して現れたバスに乗り込み、行き慣れた道を進んでいく。

疲労したままの視界でぼう、と外を眺めている内にバスは目的地に迄たどり着き、サノトだけを吐き出して暗がりに消えて行った。

店の外は少しだけ明りが灯っていて、それを頼りに扉を開くと、中途半端な明るさの店内、その向こう側にツララギが立っているのを見つけた。

扉が開いた音に気付いたらしいツララギが、こちらに振り返りにこりと笑った。

「サノト、こんばんわー」

「ああ、うん、悪いな急に」

「いーよいーよ、中にどうぞ」

薄暗い店内に誘われ、指差された机に座る。用意してくれた茶器をツララギが運び、それを机に置くと、サノトの分だと言ってカップに注ぎ入れた。

喉が渇いていたので、礼を言ってから直ぐに口付ける。お茶からはほんのりと甘味を感じた、砂糖を先に入れてあるようだ。アゲリハが作った茶とは比べものにならない位美味い。

ツララギはお茶を入れたきり黙り込み、じっとサノトの顔を面白げに眺めていた。

少し気まずくなって、視線を逸らしてカウンターの向こうを見る。

「おつかれさん」

「…どうも」

不意に労われた言葉に返事をした瞬間ごん!と頭をどつかれた。

少し痛かったので文句を言おうとしたが、それを笑い声でかき消される。

「マジで疲れた顔してる!今度はなに喧嘩したのー?」

「…全面的にあっちが悪い!」

「だろうけどさー、で?今日はどうしちゃったの?」

自分の分も茶を淹れて、それを口にしながら文字通りサノトの様子に茶々を入れるツララギだったが、言葉の端々に配慮がうかがえるので苛立ちはまるで感じなかった。

それどころか、話を聞いて貰っているお陰で徐々に機嫌が回復していっている。

爆笑しながら「うける!」と苛立つ相槌を入れてくるセイゴとは大違いだ。

これなら一晩で持ち直しそうだ。矢張り持つべきものは友人だ。

「…いい加減奴に不細工だのなんだの顔の事を言われる事について、苛立ちも何も覚えない自分になりたい」

「容姿の否定を慣れたいって凄い話だよね、俺じゃ考えられんわ」

「そりゃそうだ、ツララギはかっこいいから」

「やだもー、サノトだってかっこいいよー」

下手な慰めはよしてくれ。イケメンに言われると納得がいかないから。

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