「投資家とはな、金の貸し借りを生業としている奴らだ、まぁ、それだけだな」
「…え?それだけ?」
オギと男の会話や行動からはもうちょっと、大それた物のように見て取っていたのだが、説明があまりにも簡素で呆気にとられてしまった。
拍子抜けしているサノトに、アゲリハは苦笑して「そうだぞ?」と顔を縦に振る。
「ただ、それだけの事に多様化を極めているのが奴らだ」
「多様化?」
「そうだ、うーん、例えばな…」
先ほど描いていた絵のうちの二枚をとってアゲリハが片手ずつにそれを掲げて見せる。
一方はパンの絵、一方は何故かサノトの絵だった。先ほど見落としていたがサノトの絵まで描いていたのか。しかも似てるし。
「こういうものだ」
「いや、どういうものだよ」
「うん?分からないか?つまりな、同じ道具の上に別の絵を描いて、それが全く別のもののように見せているが、そもそも同じ道具であるのは変わらない、それが奴ら金貸しの、投資活動の多様性の正体だ」
「………えーと?つまり、まぁ色々なことに色々お金を貸すのが仕事って事?」
「そうだぞサノト!理解したか?」
「ああ、うん」
途中から話がややこしくて理解がおざなりになってしまったが、まぁいいか。それよりも、さっきから目について仕方ない自分の絵に手を伸ばす。
片方の手から絵を奪い、じっと眺めてから、くるっと自分の顔の横に並べて「にてる?」と冗談めかして笑ってみた。すると、アゲリハもへらっと笑って。
「ああそっくりだ!不細工に描けたからな!!」
「せい!!」
「痛い!髪の毛引っこ抜かれた!」
「不細工で悪かったな!不細工なサノトくんでも今日可愛いって言われたんだけどね!?べた褒めだったんだけどね!?不本意ながら男にだったけどな!」
「なんだと!?何処の趣味の悪い男だ!!」
「さっき言ってた投資家野郎だよせい!!」
「まつ毛ひっぱったいたい!!!器用だな!!じゃなくて!また男に目をつけられたのかいい加減にしろ!」
「いい加減にするのはてめーのほうだ馬鹿野郎!!男に可愛いとか言われてちょっと嬉しくなっちまったくらいは顔面不審になってるんだぞ誰の所為だよおい!」
「やかましい!褒められない場所なぞ褒めようもないわ!!」
反論戦の途中、サノトはぴたりと言葉を止めて、すっとアゲリハを見上げた。はっと、同じくアゲリハが黙り込む。
その顔に、にっこり笑って立ち上がる。
「今日ツララギのとこ泊まるわ」
暗に、お前と同じ空気をすいたくねぇ、という意思を示して出て行こうとすると、途端、わぁ!と喚きだしたアゲリハがサノトの腰にへばりついた。
「いっちゃやだぁぁあああ!!ごはんまだだぞサノト!私のごはん!!」
「うるせぇ!!飯は抜きだ飢えて三万回死ね!!」
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