「お疲れ様ですサノト君、はいこれ今日のパンと、缶の珈琲です、休憩どうぞ…」

「すみません…頂きます…」

休憩を有難く貰い、ふらふら揺れながら机にトレイを置き、缶珈琲を手前に置く。ああ、ようやく一息つける。と思いきや。

「サノトくーん!」

「うわっと!」

背後からいきなり衝撃を食らい身体が机に思い切り激突した。幸いパンにダメージは無かったが、ぶつかった部分が滅茶苦茶痛い。

なんだ!と振り返って、ぱちぱち目を瞬かせる。

「ああ、えーと…」

「はーい!僕レグサって言うの、昨日ぶりだねサノトくーん!」

「はぁ、レグサさん、どうも」

昨日のへんな人だ。相変わらず濃いな。

「相変わらず可愛いねー、ほんっと可愛い」

サノトとは全然違う感想を吐きながら、サノトの疲れた顔をむにむにと遠慮なく揉んでくる。

その際にも、可愛いかわいい!と思い切り連呼してくるものだから、疲れも相俟って、つい「可愛いか?」と真剣な声で口にしてしまった。

多分家で待ってるペットの所為だ。主にあの馬鹿ペットの所為だ。ほんとに許すまじ。

「え?なんでそんなに切羽詰まった声してるの?」

「いえすみません…ちょっと顔面不審病で」

「なにいってるの!サノト君可愛いって!僕が保証するから自信もってよ!」

「………」

なんの保証になるんだろうそれ。けど、こんなハンサムに力を入れて押されるとちょっと嬉しいかも。

そんな風に思うくらいは疲れてるんだな…。いろんな意味で…。

「ところで今休憩中?」

「え?ああ、はい」

「そうなんだー!僕とも休憩しない?性的な意味で」

「業務中の猥褻な表現はやめてください」

「ちえー!」

これは、休憩中に厄介なものに捕まってしまった。さっさと食事して仕事に戻った方がいいな。

会話を適当に切り上げてもくもくと食事に向かうと、一旦サノトの傍から離れた男が、数分後、パンと珈琲を乗せた自分のトレイを持ってサノトの席の隣を勝手に陣取ってきた。

うわぁ、とも言えないのが店員の宿命だ。

男は座った途端、爽やかな笑みでサノトの尻を触ろうとしてきたので、慌てて腰を浮かせて回避する。蒼褪めるサノトとは違い、男は非常に楽しそうだ。

…まさかパンの売り子でセクハラ(しかも男)に合う日がこようとは思わなかった。嫌すぎる。

げっそりしながら、どうにかセクハラを回避できないかと頭と目を巡らせていると、とある場所に目が留まる。

「レグサさん」と、覚えたての男の名前を呼んで、そちらに視線を集中させた。

「なになに?どうしたの?」

「レグサさんは雨の日でも傘を持ってるんですね」

サノトが声で指さしたのは男が座った席の直ぐ傍に置かれた細見の傘だった。

それを指摘された途端、「ああ、そうだね」と男が頷き、セクハラに夢中だった手を引っ込めてその傘を取った。

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