アゲリハとツララギの店で落ち合うのは何時もわざと30分くらいずらしてある。その30分を使って何時もならば買い物や所用にあてている時間を使って今日はツララギに試食を頼むつもりだ。

アゲリハが来てからだと用件が二つ重なってややこしくなってしまうだろうし、先に片づけてしまった方が無難だろう。

目的地に早速到着すると早速扉に駆け寄った。ぐ、と扉に手をかけ、オギに包んで貰ったパンがずれないように工夫して力を込める。

「おーいツララギ、いる…」

か?と、扉を開けたサノトの隣で突然――――――バン!と衝撃が走った。うわ!と驚くサノトの向こう側から、同じようにうわ!と驚く声が聞こえる。

「サノト!?大丈夫か!」

「だ、大丈夫だけど…」

恐る恐る隣を見るが、唯の扉と壁が広がるだけだった。次いでツララギの方を向くと、悪い悪いと頭を掻いてこちらに近づいてくる姿が見えた。

「サノト、どうしたんだよ、何時もより早くない?」

「い、いや、それよりもおま…っ、それ…!」

ツララギが手に持っていた物を目にした時、ひ、と軽く悲鳴が上がった。ツララギは気にした風もなくソレを掲げて「どうしたの?」と平然と聞いてくる。

何故、サノトの様子がおかしくなったのかちっともわかっていないらしい。

「そ、それ、おま…っ、銃じゃねぇか、ほ、本物…?」

「あれ?サノトこれ知ってるの?へぇ、珍しいのな、そうだよ、本物だよこれ」

「うぇ…っ」

「さっき調整して試し撃ちしてたんだけどさ…うりゃ!」

「ひっ!」

派手な発砲音と共に、再びサノトの隣を衝撃が駆け抜けた。しかし、今度は不意打ちでなかった所為か大して大きな音には聞こえなかった。

向こうの壁に当たった弾がことりと床に落ちる。同時に、けらけらと、ツララギが悪戯の成功した子供のような笑い方をした。

「面白い玩具だよなーこれ」

「おもちゃ…?」

武器では無く、玩具と、身近な表現を使われ力が抜けた。本物って言われたから吃驚したのだが、玩具の本物って事?あれ?違う?

ツララギが例の物をくるくる指で回した後、適当な場所にソレを置く。

「銃って此処じゃ知名度低いんだよ、けど、最近子供の一部で流行り始めたらしくてさ、だから仕入れてみたんだ、サノトのセカイにもあったんだな」

「あ、ああ、まぁ…」

もう一度ソレを手にしたツララギが、色々な場所を触りながら「良く弄ってたんだよなぁ」と懐かしそうに呟いた。

「玩具なのか…」

危ない物ではないと分かった途端、興味が沸いてサノトもソレに近づいた。重厚な見た目だが、持たせてもらうと結構軽い。

「これ、どうなってんの?」と聞けば、ツララギの目がきらりと光った。

「中身?中身の話?」

「うん」

「さっすがサノト!中に興味あるとか分かってんな!全く最近のガキは見た目ばっかりこだわってこれのそもそもの良さを全然わかってなくてさ…それはさておき、これね、中にバネが入ってるんだ、それをこう、手動で縮めるだろ?それを一気に離すと、中で空気の圧がかかるんだ、これはね、それを利用して、中にいれた弾が飛ぶように作られてるの」

「へぇ…」

「飛び出す威力を変えたい時は勿論、バネの強度を変えるんだけど、そうすると引くのが大変になるんだよね、だから、子供の力だとこれくらいの引きが丁度良いんだけど、これはこれで大人の限界まで引けるバネの強度にしておけば、飛距離も当然上がってくるわけで…」

楽しそうに説明していたツララギが「そうだ」と言って脇から箱を取り出し、その中から持っていたものとは別の銃をひとつ取り出してサノトに差し出してくる。

「一丁いる?」と提示され、ううんと首を捻った。

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