少人数の試食が終わると、残りを冷蔵庫に保存し(しばらくパン祭り覚悟だ)アゲリハの手を借りながら試作から試食、感想をノートに纏め上げた。
早速次の日の仕事に持ち込み、レジが開くよりも先にオギに手渡すと、大変感動した様子で直ぐに中身を確認してくれた。
「こんなにたくさん!しかもこんなに早く!ありがとうございます!」
「いえ、もしまた必要だったらその都度声かけて下さい、同じ量は無理かもしれませんけど…また作らせてみますので」
「もちろんです!ありがとうございます!」
「試作も昨日一通り作って食べてみたので、これはちょっと、っていうのはほとんどないと思います」
「サノト君…!僕は良い店員さんに恵まれて感激しています!」
「ああいや、どうも」
…それを言うならこっちの台詞だなー、というのは、彼の性格上褒め合い合戦になりそうなので口に出さないでおいた。
ひととおり、真剣にノートを見渡した後、オギは「よし!」と勢いよくそれを閉じて、何故か店の立て看板に近づいた。
書き消しの出来る表面の、時刻の部分をささっと手で消し去ると何時もの半分の営業時間を書きこむ。汚れた手をぱん!と叩いて、サノトににっこりと振り返った。
「せっかくサノト君とアゲリハさんが頑張ってくれたんですから、今日は営業時間を半分使って実食用の試食品を店でも作ってみましょう、もちろん、今日の給料も上乗せします!」
オギさんマジ店長の鑑!あいしてる!
「ざっと見て、今ウチにある材料で直ぐに作れそうなのはノートの半分くらいですね、とりあえず、この半分の作成を目指して、残りの時間でお客さんに試食をお願いしてみましょう」
「分かりました」
今日の方針が決まった所で、早速二人で作業に取り掛かる。サノトが時折説明しながら、度々オギが断りを入れパンの要所を改良をしていく。
もくもくとそれを続けていると、キッチンの台があっという間にパンの山積みになってしまった。半分でも、相変わらず尋常では無い量だ。
ソレを更に食べやすい大きさに切り分けて、食材を入れる為の籠に次々と盛っていく。
全ての試食が食べられる、選べられる形で(ついでに本日用の在庫も)完成したのは陽が真上に昇り切った後だった。
珍しく汗をかいたオギが、嬉しそうに「できましたね!」と微笑んで、籠を外の机に運び出した。往復するオギを手伝い、サノトも籠を両手に持って机に運ぶ。
最後のひとつを運び終えるとオギが何処からか掌大の板を取り出し、表面に何かを書きこんでからそっと籠の隣に置いた。そして「試食場の完成です!」とひとこえ上げる。
改めて見ると、中々壮観な様だ。
「それじゃあサノト君、お店を開けたらなるべくお客さんに試食を勧めてください」
「わかりました」
丁度良い時間になったので直ぐに店を開けると、何処に潜んでいたのか、まってましたと言わんばかりにぞろぞろと客が寄りついてきた。
何時もよりも開始の時間をずらした所為か、詰まっていた栓を抜いたかのように客入りが勢いづいている。二人で慌てて持ち場を開き、早速接客と対応に当たった。
勘定をしながら試食を勧めるのは何時も通りにはいかない事もあって、初めの内は難儀を極めたが、時間が経って話を差し込むコツを覚えてくると次第に苦なく出来るようになってきた。
オギはオギで、箱で補充を作りながら、試食する客が居ればぱっと持ち場を離れて真剣に意見を書きとめている。流石の身のこなしだ。
その内、商品を買ってからついでに試食した客が、わざわざこちらに戻って「これは新作になるの?」と尋ねてくるようにもなった。一人、二人の数では無い。
怒涛の客入りが落ち着いて来た頃、レジを一旦締めてオギの元へ戻った。オギはといえば、書きとめた客からの意見をほくほく、嬉しそうに眺めている。
「結構良い反応多いですね」
恐らくその事に関して微笑んでいるのであろうオギにそう話かけると、間髪入れず「はい!」と良い返事が返ってきた。
「もう、商品化してほしいお願いとか、楽しみにしてますっていう意見ばっかりです!種類も多いから色々参考に出来ますし幸先が楽しみです!ほんとにサノト君とアゲリハさんのお陰です!この調子でお客さんの声を集めて検討しましょう!」
「あ、だったら試食少し分けて貰っても良いですか?客商売やってる友達のところに今日寄るんでついでに試食して貰ってきます」
「サノト君…!僕は良い店員さんにめぐま」
「以下略いかりゃく!」
そんなに褒められると、恥ずかしいっての!
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