「好きな物を選べと言ったからそうしたんじゃないか」

「そうは言ったけどさ、仕事用にやってるんだからもうちょっとこう彩の有る意見をさ…例えばこっちの味の方が刺激的で好きだとか」

「味に関してはどれも優劣は無い、どれも美味いとしか言いようがないぞ」

「…そーですか」

この奇天烈(改)を考えた奴の意見ならばソレ自体も飛んでいるかと思えば、評価は普遍的に偏るようだ。発想力の乏しいサノトでは、その差がいまいち理解できないが。

しかし困った、これでは感想にならない。したらばどうするかと暫く考えてから、欠片をかき集めて袋につめた。

早速試食に飽き始めたらしいアゲリハにキッチンの片づけを頼み、更に真剣にやるようにと釘を打ってから隣の部屋に移動する。

扉を叩くと数秒の間を空けてから「はーい」とセイゴが現れた。よ、と手を上げ中に入ると、早速、サノトが持ってきた袋にセイゴが目敏く反応した。

「それなあに?」と尋ねられ、応えるようにソレを差し出し中を見せる。

「働いてる店で新作の試作頼まれてさ、良かったら試食して貰えないかなって、どう?」

「いやどうって、量がやばいんだけど」

「ははは、だよな、うんなんていうか、やってたら結構楽しくてさ、ついな」

「試食ねぇ…」

まじまじと、パンの詰まった袋を眺めてから「まあいいよ、こっち来て」と机に誘われる。有難くついて歩き、机にパン入りの袋を置く。

一旦奥に姿を消したセイゴが、やがて二人分の茶器を持って戻ってくる。珍しく給仕してくれたセイゴのお茶を、有難うと言って受け取った。

袋から、欠片を机に移動させ並べると、セイゴがうぇ、と、引き攣った顔を浮かべた。

「僕、全部は食べられないかもよ?」

「いいよいいよ、好きそうなの好きなだけ食べて」

「はーい」

セイゴは机の上で手を彷徨わせ、幾つか目星をつけると自分の手前に置き、一つずつ、小さな口で咀嚼を始めた。

「うわ!」と叫んだり「お」と感心したような声を上げたりしながら、その内そこそこ楽しそうな顔を浮かべながら試食を続けた。

もう無理入らない!と手を止めた所で「どれが一番好きだった?」と尋ねると、格好を行儀悪く崩しながら、ひとつ、パンの残りを持ち上げた。

「これかなー、クリーム入って甘いかと思ったら全然甘く無くて、しかも胡椒なんか入ってるんだもんさ、けど下段が滅茶苦茶甘いクリーム入ってるから殴られたような気分で、予想と味が違って面白かったよ、結構好き」

「そうかー、俺とは違うな」

ちなみにサノトの好きなパンは、見た目は大変おいしそうなのに齧ってみると滅茶苦茶苦くて、けど最後に何処からかまろみを引っ張ってくる、結構くせ者なやつだ。

「そう?アゲリハ様は?」

「アイツ余りもので作った地味な奴が一番好きだっていうんだよ、後は優劣が無いとか言い出すからさ、参考にならねぇ」

アゲリハの感想を聞いた瞬間、セイゴが大きな目をぱちくりと開閉してから「へぇ」と、形容し難い笑みを浮かべた。

サノトがその変化に触れる前に、さっさと顔のつくりを元に戻して「どれ?僕にもそれちょうだい?」」と強請られる。どうやら興味を持ったらしい。

セイゴの選定には叶わなかった地味なソレを探して渡すと、間髪入れず、セイゴがソレを口に運んだ。

暫く味を堪能してから、口の端についたソースを拭って言う。

「うん―――アゲリハ様にしては、まぁ悪く無いんじゃない?」

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