「サノト、そっち詰めてくれ」

「おー」

男二人でキッチンに並び、食材を横と縦に並べる。とりあえず、直ぐに出来そうな物をノートから選別し、仕事の技術(と言える程のものかどうかはさておき)をアゲリハにもう一度教え直し、調理を開始する。と。

「おい、お前それ砂糖どれだけ入れる気だよ、おい、おい聞いてんのか」

「きいてる効いてる」

「おい!今何のきいてるだった!?砂糖か!?おい砂糖から手を離せ!お砂糖さんとはそこまでだ!おいこら!!」

「じゃあ、これはお前が残りをやってくれ、今度はこっちをやるから」

「……お前さ、何で今ソース塗ったのにその上にクリームぶちまけるの?お前の料理は何で毎回芸術大会を開くの?」

「描いた通りに作っているだけだ」

「いやいや、明らかにおかしいから、色とか量とか、主に量とか」

「…サノトうるさい」

「なんだと!!…あーもう良い、兎に角仕上げるぞ!」

「はーい」

二人並んであーだこーだと言い合いながら、粗方出来上がったパンを今度は机に並べ、完成品のいくつかをナイフで分断していく。

それらをひと口、ふた口齧ってみると。

「…あ、結構いけるかも」

一般的とはいえないが、そこそこ許容範囲の味わいが楽しめた。これは中々良い線いけたのでは?と、自賛しつつ、あらためてパンを眺め、…ううん、と顎をかく。

並べたパンは所狭しと机に溢れ、二人暮らし用の机では今にもはみでんばかりの惨事になっていた。明らかに作り過ぎてしまった。人の事を言えないくらい、量がやばい。

まぁ、要望に数の制限は無かったみたいなので良しとしておこう。

それよりも、隣でもふもふパンを食べまくっているアゲリハに「なぁ、お前どれが好き?」と、作ったばかりのパンの感想を聞いてみる。

試食して貰って、なるべく意見の幅が欲しいと書いてあったそうなので、これも仕事の一環だ。

「…んー」

アゲリハは一度食べる手を止めると、パンの上をちょいと指差した。

さて、この奇天烈レシピの中でこの奇天烈男はどの奇天烈に冠をつけるのかと思いきや、選んだものの正体を見て、がくりと肩が下がった。

「お前なー、なんでこれなんだよ」

「なぜだ?お前が選べと言ったんじゃないか」

「いやそうだけど、わざわざこの中でこんな地味なの選ぶなよ」

アゲリハが選んだのはパンの隅の方に置かれていた、サノトが余った材料で作った変哲の無いパンだった。アゲリハの描いたレシピのひとつでは無く、単なるおまけでしかない。

それを持ち上げて「こんな地味なのさぁ」ともう一度文句を言うと、不機嫌の移ったアゲリハがぶぅ、と不貞腐れた。

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