仕事の帰り際、材料と共に買ってきた色ペン数本とノートをその辺に転がっていたアゲリハの上に落下させた。丁度鼻の上に直撃したらしいアゲリハが「いたい!」と唸って身体を起こす。
「ごろごろしてるヒマはねーぞバカラス、喜べ、お前のとんでも感性でもお役に立てる仕事が舞い込んできたぞ」
「それほどでもないぞ!」
「褒めてねぇよご都合変換機かお前の耳は、じゃなくて、ほら」
袋に詰めた食材と、オギから預かった書類一式を机の上に置くと、早速アゲリハが一番上の紙を摘まんで「新規品目考案企画書?」と、ソレを読み上げた。
「仕事先から頼まれたんだよ、…お前がずっと前に適当に作ったパンあっただろ?あれ、改良した奴店で出してたら思いのほか受けが良くてさ、他にも考えてくれないかって言われたんだよ」
発端や事情さえ抜けば大変光栄な話を、当の本人はぱらぱらと紙を流し見ながら「ふーん」と受け流し、先ほど落としたペンの方にさっさと興味を示し始めた。
書類を脇にどけて「これはどうしたんだ?」と、一本一本拾い、最後にノートも拾って机に置く。
「え?まぁ、作る前にある程度完成図とかあった方が良いかなって思って、試作用に具材の経費貰ったからそのついでに思いつきで買ってきただけだけど…」
また偶々が生まれるとは限らない。お金を貰う以上はサノトの方でもそれなりに気を使うべく所存だ。
それに、見ていないとまたどんなとんでも調理を始めるか分からないし。先方からはそれを求められてるんだけど、また偶々上手くいくとは以下略。
とりあえず、こんな風に描けばいいんじゃないだろうか、というのを自らの手で実践して見せる。
ノートを開き、机に置かれたペンを中に走らせ、ハムと野菜を挟んだ無難なパンを書き加える。
良くも悪くも無いサノトの手書きパンを見た途端、アゲリハが別のペンを手にとった。そして「絵を描くのは得意だぞ!」と、次のページに今度はアゲリハが書きこんでいく。
「お、…あれほんとだ、滅茶苦茶うまいな、お前の以外な才能を見たぞ」
「お前の絵も悪くは無いぞ、顔と一緒だな!」
「おっとペンが滑った!!」
「痛いめりこんだ!!」
「わりーわりー、それより、お前の方が絵上手いなら話早いな、思いついたパンの絵どんどん書いてってくれよ、何挟んでるのかは後で教えてくれ、俺も見るから」
「よし分かった!」
クレヨンを手にした3歳児のような反応で、アゲリハが次々とノートを埋めていく。…あまりにも栓無く出てくるので、ノートが半分になった所でサノトの方が待ったを掛けた。
出来上がった絵を眺め、説明を促し時に「うぇっ」となりながら、全部を見終わった所でノートを閉じた。ノートと、脇に寄せられていた書類を手に取り立ち上がる。
「さー善は急げだ、実際に作ってみようぜ」
「わかった!」
「店の要望とかも一応あるらしいから、ソレ読むのも頼んでいいか?俺、読めないからさ」
「わかった!」
「じゃ、お前作俺監督って事で、がんばりますか」
「初めての共同作業だ!初婚だな!」
神聖な儀式をこんなものといっしょくたにするな。というのは、まぁ相手がノリノリなので水を差さないでおく。途中で拗ねて投げ出されても困ってしまうからな。
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