一瞬、呆気にとられてから、ツララギは顎に片手を充てて深く考え始めた。やがて「ああ!」と声を上げると、サノトの肩をばしばし叩き始めた。

「サノトすげーな!その発想どこから出たの!?」

「いやだから、発想じゃなくて、実際に違う世界から来たんだって…ほらこれ」

仕組みはどうやら理解してくれたらしい。これはもう一息だと、次に文字を書き連ねる。この国の字では無く、自分の見知った字だ。

「なにこれ?なんの絵?」

「絵じゃないよ、俺の使ってる文字」

「…え?なにこれ?」

「こうやって書いて、おはようって読むんだよ」

「…え、ええー?」

まだ飲み込み切れていない様子のツララギに「違う時間があるなら違う文字だってあるだろ?」と念押せば、もう一度「ああ」と呟いた。何だか、試験の前に鈴木と勉強を教え合っていた時と似たような反応だ。

「あとこれも…」

あと一押しだろうと、鞄から既に電源の切れた携帯の電話を取り出し手渡すと、ツララギが目を皿のようにしてそれを眺めた。

「これなに?」と聞かれたので、「電話」と、一番分かりやすい答えを述べる。次の瞬間「電話!?」と叫んだツララギが死ぬほど吃驚したみたいな取り乱し方をした。

「まじで!?つながるのこれ!?え、線ないんだけど!!ちょ、ちょっとかけてみてよ!」

「かけられないよ、もう動かないから」

「えええ!?まさかの冗談落ち!?サノト以外とどっきりさせるの上手いな!」

「違うって!充電出来ればかけられるんだよ!」

「ジュウデンってなに!?」

「これを動かす為の物を中に貯めるんだよ!」

「は!?それ動力の事だよね!?」

「え!?いやそれとはまた別でさ!充電池が!」

「ジュウデンチってなに!?」

「………」

「………」

一旦お互い黙り込み、とりあえず息を吸って吐いて気分を落ち着かせる。その直後、ツララギが「セカイが違うってなんか凄い事なんだな」とおっかなびっくり呟いた。

「ていうか俺、お前に全くそっくりな奴と友達だったんだよ、だから説明しやすかったんだけど…」

「なにそれすげぇ!!お前すごくない!?」

「あ、ありがとう…?」

礼を言ってみたが、別に自分は何も凄くないような。

「え!?どうやってこっちきたの!?」

「それは…」

それだけ口止めされてるから言えない。とは言わず、「眩い光に吸い込まれて、気が付いたら此処にいました」と何処かの漫画で読んだ適当な嘘をでっちあげると、そろそろサノトの言ってる事が冗談とは思わなくなったらしいツララギが「すげー!」と、目を輝かせて頷いた。

…最後に嘘ついてごめん。でもこれだけはしょうがない。言えるようになったら今日みたいに訂正しよう。

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