「ちょうどいいな、一緒して良い?」
「ああ、いいよ」
二つ返事をしてから、向こう側に居るオギにさっと手を上げレジから離れる。店の近くに置かれたその場で飲食する用の椅子と机に二人対面で座ると、特に合図もせずにお互い食事を始めた。
暫く咀嚼してから、ツララギが突然「ぶほぅ!!」と盛大に噴き出す。あまりにも勢いが良かったので、サノトまで笑いに吹き出してしまった。
「おま、これ、なに…っ!?」
「今日増量した一部の客層向けのスペシャルメニューです、感想は?」
「白目剥くかと思った…!」
「だよねー」
普通の感想は此処だよね。と、ツララギの反応を見ながらしみじみ思う。
「何が入ってんのこれ?」
「うーん、辛子とヨーグルトが同量と、ハムと、ジャムと、野菜と」
「それと?」
「ソース各種、加えて店長のアレンジ、詳しくは聞かない方がいいよ」
「…了解だ」
顔を真っ青にさせたツララギが、親の仇のような目つきで青天をにらんだ後、ええいと、半分を口に詰め込んだ。
「そんな顔するなよ、これ、女の人だって買いにきてるんだぞ」
「まじかー、…まぁ、刺激が癖になるっていうのは分からないでもないけど、俺は限りなく普通で良いかな」
「だよね」
苦笑しながらサノトも自分のパンを口の中に詰めていると、2、3度噛んだ所でそういえば飲み物を忘れていた事を思い出した。
未だ苦痛を伴う顔を浮かべているツララギに、お詫びと、サービスで「お前の分も珈琲とってくる」と言って席を立つ。
「お金はー?」
「いらない、偶にはサービスさせてよ」
「あっはは、サノト君も言うようになったね」
くすぐったいからかいを背に受けながら赤い箱に戻り、珈琲を淹れてからレジに向かう。
珈琲を乗せたトレイを置いて財布からツララギ分の珈琲代を取り出しレジに放り込む、途中、レジの横に置かれた紙束が目に入った。先ほどオギに渡された資料だ。
そういえば休憩中に見る予定だったなと、何気なくその紙をぱらりと開いて――――愕然とする。
…そうだった読めないんだった。仕事も生活も、文字が読めなくても言葉でそれなりにどうにかなっていたから全く失念していた。
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