飛び出かけた独り言を慌てて飲み込み、それじゃあ宜しくという事でオギに何かを渡された。本店からの一通りの希望や、本店のみ出ている品目の資料などらしい。

守らなくても構わないので参考に読んでおいて欲しいと言われ、しっかり頷く。

「でも、本店がこんな事頼んでくるなんて…珍しいな」

「なにがですか?」

「あ、いいえ、なんでもないです、宜しくお願いしますね」

「はい、勿論です」

とりあえず、休憩中にでも一度目を通そうかと思い、サノトはそれをレジの横に置いておいた。

一通り話終えるとサノトはまた列の出来たレジに戻り作業を再開させた。目的の物を買って満足げに帰っていく人の中で、突然、すっと手が上がる。

「さーのと!」

ぎょっと目を剥いたが、声を聞いた瞬間驚きを収めた。とりあえず、最後尾まで物を売ってから、今度はサノトが手を上げる。「おつかれ」と、労えば、最後尾に居た客――ツララギが、にっこりと口元を引き上げた。

知り合ってから、それなりに店の味が気に入ったらしいツララギは、こうしてちょくちょくパンを買いに来てくれている。ツララギの言う所の、友達でも儲けになるという奴かな。勿論良い意味で。

「おつかれサノト―!また買いにきたよー」

「ご贔屓にしてくれてどーも、どれにする?」

「そうだなー…偶にはハムと芋の奴にしようかな」

「今日青天あるよ」

「せいてん?何それ」

「あれ?お前知らなかった?」

「俺、おんなじのばっかり食べちゃう癖があってさ、そのせいてんって何?人気あるの?」

「…ある、かな?」

「そっかぁ、じゃあ今日はそれにしてみようかな、久しぶりに違う物食べたい気分だったし」

サノトがつい口にした提案を、お勧めか何かと思ったらしいツララギが、疑いもせずに青天を頼んだ。

不味い事したかな。と思いつつも、後の反応が面白そうで敢えて事実を伏せておく。

にやにや笑いを堪えながらツララギに物を渡していると、作業をしていたオギから「さのとくーん」と名前を呼ばれた。

ツララギに勘定を待ってもらい、返事をして駆けつけると、両手を広げたオギに「休憩です!」と肩を持たれた。

「お客さんが大分捌けたのでそろそろ良いかと思って、レジも暫く僕がやっておくので少しのんびりしてて下さい」

「あ、はい、分かりました」

「はい、今日のパンはこれです、適当な所で食べてください」

「有難う御座います、あと一人勘定済ませたら休みます」

「はーい、お願いします」

サノト用に作って貰ったパンを貰いレジに戻ると、ソレに目ざとく気づいたツララギが、硬貨を出しながら「それまかない?」と尋ねてきた。

ツララギ用の青天を渡しながら「そうだよ」と答えると、相手の目がきらりと光った。

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