「ああ、はい、向こうに本店の人が来てたんです、知り合いだったので少し話し込んでしまって…」
「…本店?あれ?うちって本店があるんですか?」
「あれ?僕言ってませんでしたっけ?本店が零番街にあって、うちは三番街の出張店、他にも別の街に数件お店が出てるんですよ」
それは初耳だ。結構規模の大きい店だったんだな。
「僕も初めは本店で働いてたんですけど、三番街に新店舗を出す事になった時こっちの店長配属になったんです」
それってつまり、抜擢されて店長になったって事だよな。昇進って奴だよな。仕事も出来て優しくて、人望もあって昇進もしているなんて。
「オギさんって凄いですね!」
「わーい!サノト君が褒めてくれました!と、それはさておき、サノト君、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど」
「え?なんですか?」
「アゲリハさんはお元気ですか?ご病気はもう、快復されたでしょうか?」
突然、此処で大変迷惑をかけてしまった同居人の話を持ち出され目が点になってしまう。予想だにしなかった所為で「はい、まぁ」と変な声色で答えてしまった。
そんなサノトの様子にも笑顔を微動だにせず、オギが「よかった!」とサノトの手を握った。
「病気が治ったとはいえまだまだ養生する期間は大事です!けど、それは承知で彼にお願いがあるのですが…」
「え?なんですか?」
「青天の霹靂の産みの親でもある、彼に新しいパンの品目考案を!!」
「お断りします」
「最後まで言わせてくださいよー」
「いやいや正気ですかオギさん、そりゃ、青天はたまたま売れちゃったけど…」
たまたまリピーターもついちゃったけど、それはほら、奇跡とか偶然とかそういう類であって。というか、もしまた上手くいくんだとしても、それをもう一度起こす事自体怖いっていうか。
と、言い出したいサノトを、手を握る力を強める事でオギが遮る。どうしても、どうしても!とお願いされては口も開けない。
「その事についてさっき本店の人と話が盛り上がったんですよ!というか、彼、そのことで打診に来たんです」
「ええー?」
「なんでも青天を本店に買いに来たお客さんが、本店にないと知って苦情を入れたみたいなんです、それで調査に来たって」
「ええー?」
「僕も後学の為に、あの斬新な発想を是非また頂きたいっていうか!それが本店への貢献にもなるなら良いかなって!あ、それで、ごめんなさい、話が盛り上がった流れでつい勝手にレシピを教えてしまって、アゲリハさんに、せめてサノト君に了承を得るべきでしたよね」
「いやそれはどうでも良いんですけど」
「有難う御座います!」
「い、いいえー?けど、やっぱり奴の新作はどうかと…」
「お願いです!ね?あ、ちゃんと考案分御代金支払いま」
「分かりましたやらせます」
やった!!!臨時収入!!!
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