何時もより早めに辿り着いた仕事先で、頭を大げさに下げるオギに頭を下げ返す。何時もとちょっと違う挨拶が終わると直ぐに仕込みに入った。
複雑な具材をぱんぱんに詰め込んだサンドイッチを何度も繰り返しながら作り上げ、後ろの棚に積み上げていく。それを、オギが「もう大丈夫ですよ」と切り上げるまで続けた。
「それじゃあサノト君、今日は先にレジの方をお願いしますね」
「分かりました」
割りに早く中の仕事を覚えられたお蔭か、段々と外の持ち回りも任せ始めてくれている。
レジ作業も、硬貨は違えどやり方に変わりは無かったのでそれほど苦労無く覚える事が出来た。初日のトラブルを除けば、今日まで至って順調な仕事ぶりだ。
簡素なレジ箱の中身を覗き、足りない硬貨が無いか確かめていると不意に影が差した。顔を上げると、背の高い女性がじっとメニューを見下ろしているのが見えた。どうやら、早速お客様がおでましになったようだ。
「いらっしゃいませ、何にしますか?」
可もなく不可も無い笑顔で注文を取り次ぐ。女性はメニューを数分眺めた後「これをちょうだい」と言ってスペシャルメニュー、別名青天の霹靂を指差した。
「…ありがとーございまーす」
空返事をしてから物を相手に渡した。代金を支払った女性は、じっとサンドイッチの包みを眺めた後、にっこり笑って去って行った。
女性が去った後、今度は小太りの男性がレジに近付いて来た。その後ろにまた別の誰かが2、3人と並び、列を成していく。驚くべき事に、その全員が同じ物、否、青天以下略を買って去って行った。
補充を取りに赤い箱へ向かう。足りなくなったサンドイッチを受け取りながら、ふとサノトは目を細めた。
「…ほんと、変に売れますね青天のやつ」
そうなんですよねぇ、と、頷きながらオギが笑う。
「最近青天さんを一口齧っただけで白目剥いちゃったお客さんが、その三日後くらいに再来店されて、これじゃないと!って言いながら買い続けてるんですよー」
え?それ何か色々やばくない?大丈夫?
何やらドラッグ効果もあるらしい劇物と他の補充分を恐る恐る抱え、レジに戻ろうとした時、不意にオギが「あ」と声を上げた。びく、と跳ねて振り返る。オギが赤い箱の窓から、もう少し向こうを眺めていた。
「あの人…、サノト君、ごめんなさい、ちょっと席を外しますので少しの間だけ両方お願いします、直ぐに戻ります」
「あ、はい」
サノトに持ち回りをお願いすると、オギは赤い箱から飛び出し眺めていた向こう側に走り去って行った。何事かと気になったが、レジがまたこみ始めたので慌てて持ち場に戻る。
直ぐに戻ると言っていたので、てっきり数分もすれば戻ってくると思いきや、それからオギは、十分、二十分経っても姿を見せなかった。
店員に仕事を押し付けてさぼるような人では無い事は十も承知しているので、三十分経った所で流石に心配になり、丁度人も捌けたので店を一時閉めて様子を見に行こうかと、考えた矢先にひょこっとオギが戻ってきた。
心配しました、どうしました?とサノトが尋ねる前に、オギが「遅れてすみませんでした!」と遅刻を詫びる。全然かまわないので首を横に振り、気を取り直して「どうしたんですか?」と尋ねを口に出した。
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