朝から喧しいやりとりを早々に切り上げると、台詞の最後辺りでアゲリハがびくっと肩を鳴らした。ぷるぷると震えた後「頑張ります」と神妙な声で呟く。

それを見たセイゴが、怪訝な顔でサノトに振り返った。「なんかしたの?」と聞かれ、ふんと鼻を鳴らす。

「あ?皿の一枚も洗えないような男と付き合いたくねぇから今後一枚でも割ったら別れるって言ったんだよ」

胸を張って言い放ったサノトの腰にアゲリハが「うわあん!」と急にへばりついてきた。頭をぐりぐりと擦り付けられ、心の底から邪魔だと思った。

「サノト!私は皿のいちまいで別れるなんて嫌だぞ絶対に嫌だぞ絶対に許さないぞ!」

「お前の許すも糞もあるか、そんなに別れて欲しくなきゃ今すぐ皿の一枚手早くしっかり洗え!!」

ぐすぐす泣き出すアゲリハを蹴飛ばして、片づけた皿の詰まれた洗い場に向かわせると、しょんぼりしながらもごしごしと大人しく皿を洗い始めた。その手つきはいやに真剣だ。

その背中と、サノトを交互に見たセイゴが、ぽつり「すごいね」と呟いた。

「何が凄いんだよ、やりゃあ出来るのにその時の気分で全部ぶち壊すアイツの躾けがなってねぇだけだろ」

「いやいやあの人を躾けようとするサノトがさ…まぁいいや、時間大丈夫?」

「…大丈夫じゃない!いってきます!」

「いってらっしゃーい」

玄関に向かうサノトにセイゴが笑って手を振り、サノトも振り返した。扉を閉めると直ぐ、ばたばたと中から大きな足音が響く。

振り向くと、丁度閉めた扉からサノトよりも頭一つ分は大きいアゲリハにがばっ!と抱き着かれた。すんすんと犬のように鼻を擦り付けてから、自前の美貌をサノトの直面でにっこり蕩けさせる。

「いってらっしゃいサノト、おしごと頑張って」

「はいはい、お前もなるべく頑張ってくれよ」

「はーい」

そのまま口と口がくっつかないよう、相手の顔面に片手を翳すと不意にその手を取られ、項に唇を落とされた。

そしてまたにっこり笑ってサノトを手放す。サノトが昇降機に乗るまでずっと手を振るアゲリハの姿を目を細めて見ながら、サノトも2度ほど手を振り返した。

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