オギに今日は早めに出勤して欲しいと頼まれたので、早目に掛けておいた目覚ましが何時もの朝より肌寒い時間に鳴り響いた。
眠気に寝返りを打った途端、むぐ、と唇が何かにぶち当たる。その反動で目をぱちりと開け、一息だけ唸った後反対方向へ寝返り、半身を起こした。
サノトの隣では、持ち主のベッドの半面、いやむしろ3分の2くらいを陣取った巨体が、すやすやと気持ちよさそうな寝息を立てている。
がりがりと頭を引っ掻いてからそっとベッドを降りた。一通り支度を終えてからエプロンをつけ、昨日の残りを合わせた朝食を用意すると、再びベッドに戻ってアゲリハの横に立つ。
その背に、拳を作ってごんごんと叩いた。途端、いたいいたいと小さな抗議が上がる。
「おいアゲリハ、起きろ、朝だぞ」
目の前でごそごそと布がこすれる音が響いた。覗き込むと、瞼を擦りながらアゲリハがこちらを見上げていた。
そして開口一番。
「サノト、最近ちょっと反応が薄くは無いか?」
「………」
奴が悪戯にサノトのベッドに潜り込むのは今日に限った話では無かった。
確かにされ始めた当初くらいは「ぎゃあ!」とか「うわ!!」とか、盛大に驚いてベッドから転げ落ちたり、朝から大層な喧嘩に発展した事もあったが…20回以上もされれば慣れて当然だろう。
というか、慣れるまで潜り込み続けた元凶がリアクションを求めるな馬鹿野郎。
そんなどうでも良い事はさっさと流すに限ると、奴がくるまっていたサノトの掛け布を無理矢理剥ぎ取り洗面台まで行くように背中を蹴飛ばした。
あまりベッドの上に置いておくとその内調子に乗って「キスしてくれたら起きる」とかほざき始めるので、面倒事もさっさと流すに限る。
アゲリハが洗面台に立っている間に、自分はドリップで淹れた珈琲、アゲリハは砂糖を含ませたお茶を用意した。
自分用に用意した珈琲を眺めながら、この国の珈琲の色だけはサノトの知っている物と同じ色で良かったと、割と頻繁に思っている。
二人で食事を始めるその隣に、手つかずの食事を一人分用意しておく。その事について何の疑問も持たずに食事を食べ終えると、玄関から「おっはよーう!」と明るい声が響いた。
「おはようセイゴ」
「あれ?今日朝ごはん早いね、もう食べ終わっちゃったの?」
「ああ、今日俺の仕事が早いんだよ、先に食べて悪かったな」
「ううん、全然、僕が勝手に来てるだけだし、それより今日なになに?」
「パンと、変な色の人参見つけたから煮てみた」
「え?変な色?どこが?」
「ああすまん、こっちの事情だ気にしないでくれ、それより先に手を洗え」
「はーい、おかあさん」
「ちげーし、おいアゲリハ、顔についてるぞちゃんとふいとけ」
「はーい、奥さん」
「ちげぇよ」
「そうだな気が早かったな!あっはっは!」
「はいはい、…おいアゲリハ、俺もう行くから食器洗っといてくれよ」
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