薄暗い照明が灯る部屋で、上等な紙束を掲げて椅子にもたれる。

表面をぱちぱち叩きながらくすくす笑うと、奥から、上等な服を着込んだ男が茶器と共に現れた。

相変わらず、楽し気の無い顔つきと質の良い服装が噛み合わず、出で立ちをちぐはぐとさせる奴だ。

男は机に茶器を一式並べ、手際の良い動作でカップに二つ茶を注ぐと、自分の分を持って対面の椅子に座った。

同時に、相手の膝に向けてその紙束を投げつける。ばらばらと、紙束が離れて落ちるのを、男は微動だにせず眺めていた。

「ゴトー、中央列車は随分業績が悪いご様子だね?こんなものをアスタの手を借りて着手するなんて、大層血迷ったもんだ」

膝に落ちた紙を手に取ろうとした男の、その手に目掛けて今度は淹れたばかりの茶を浴びせかけた。

阿保らしい内容の癖に紙質だけは良いから余計に馬鹿らしい。こうして茶でも含んだ方が紙にも内容にも箔がつくねと笑う。

嘲りに対しても、男は微動だにせず、堅苦しい顔で「そうでもないですよ」と、軽く火傷した手で紙束を集め机に置いた。

「貴方が見たかどうかは知りませんが、先日、この事業計画内容に関する決定的な裏付けが発見されました」

「先日目撃されたっていう、飛行列車のことかな?」

「そう」

「………」

先日、トーイガの空に列車が飛んだ。その目撃情報は少なからず拡散され、未だ一部で話題となっている。

それはこちらの耳にも届いているし、それがこの紙に書かれた、事業計画を加速させたのもわかっている。しかし、だ。

「トーイガの空に列車が飛んだ事が事実だとして、それ自体が目的じゃぁないだろうに、老害どもがお祭り騒ぎばかり起こして笑えるったらないよ」

「そう言わないで下さい、あれでも必死なんですよ」

そんな事こそどうでも良い。必死になれば儲けが出るのならばそもそも物事は永劫、傾く事などない筈なのだから。

そのうえアスタになど手を出し始めるのだから、人の頭は時として大層ねじり狂っている。

だが、不思議に思う事はある。

机に置かれた、茶に濡れた紙をもう一度手にとり椅子に頭を沈ませる。ぱらぱらと流し読みながら「ねぇ」と男に話かけた。

「ゴトー、節目と事件はどうして同時に起こるんだと思う?」

「さあ」

「………」

「………」

いや、さあ?だけはねーだろ。会話が成立してねーよ。

「お前さぁ、昔からだけどもう少し上手に受け答えしろよ」

「しろよと言われましても、俺がその辺りに疎い事を知っているでしょう」

「おいおい、さっきからさぁ、中央列車のご子息様がさぁ、程度の知れる会話しないでくれる?お前の肩書が世間に知れ渡っている事はもはや恥だね」

「そんな物何処でもどうとでもなさって下さい、興味が有りません」

「そーですか、ま、話に相手が居ないのはつまらない、いるだけマシだと思おうか、本題はこっちだよ」

持っていた紙束を机の脇に寄せて、鞄を取り出し別の紙を取り出す。変哲のない紙に書かれた内容を男に差し出すと、それを受け取った男が内容をさっと流し読みながら、はたと目を見開いた。

「これは、…別の事業計画案ですか?」

「そうそう、アスタ側が要請されたのは出資と事業の立て直しだからね、別の計画立てるのも自由って訳」

「けれどレグサ、もし仮に空への投資が当たれば大きな金になる、うちの抱えた負債も免れるかもしれない、だからお爺様方は躍起になってる、貴方は笑いますが、本気で投資をしているアスタは大勢います、現に飛行列車は先日トーイガの空を飛んだのですから」

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