電話を頻繁、出戻りを月に何度か、男二人の同棲生活を見守って報告。それが此処最近の、自分のお仕事だ。
汗癖働く優良な労働者が出勤していく様を眺めながら、とんだ業務内容抱えてるよなと、自分の仕事を自分で突っ込んでしまうのが非常に、笑える笑える。
「どうもどうもガィラ様、そちらからお電話してくるなんて珍しいですねー」
大変珍しくこちらに連絡を自ら寄越してきた上司に、けらけら笑ってご機嫌を伺うが、涼しい声で『取り急ぎの用件があります』と返される。
声と同じような顔で受話器を耳に充ててるんだろうな。今日も相変わらずのご様子で何よりだ。
「ガィラ様から掛けてくるなんて、よっぽどのご用件でしょうか?」
『ええ、…とりあえず用件の前に、アゲリハ様のご様子はいかがですか?』
涼しい声を、多分ほとんどの人間が分からない程度に曇らせて、今度は逆に上司の上司(と、判断するのは未だに謎だが)の機嫌を伺われる。
うーん、と、空いている方の手を顔にあてて件の人の顔を思い浮かべる。ご様子も何も、彼は今、大変楽しそうで幸せそうで、何よりな状態だ。
「順調そうですよー?念願の運命の彼氏と同棲出来て、毎日毎日へらへら幸せそうに笑ってますよ」
これまで見てきたそのままを報告すると、相手が少しだけ間をあけてから『そうですか』と素っ気なく答えた。これもまた、分かりにくく曇っている。
その声色の変化に、難儀だなぁ、と、声無く笑う。まぁ、それが難儀になっているのは本人の気の持ちようの所為だろうけれど。
そこまで考えてから、なんとなく悪戯心が芽生えた。
「サノトの方は聞きますー?」
『そんな事はどうでも良いですよ』
ははは。だよねぇ。
『前置きは以上です、セイゴ、私が今日連絡を寄越したのはこれからが主です、いずれ貴方に使いを頼む事もあるかもしれませんので、まずは耳に入れておきなさい』
「どうしたんですか?」
『…アスタが動き始めたかもしれません』
「アスタですか?」
自分と電話の相手が仕事として生業する場所から、同じ物を扱いしかし対局に位置する、何時もならば苦情の対象でしかない相手を示され目をぱちくりと開いた。
動くも何も、アイツ等何時も金儲けに動いてるじゃないか。アスタ―――投資家(とうしか)とはそういう生き物だ。
朝も昼も夜も、彼らが本当の意味で眠る事はまずありえない。バス停と同じだ。だがしかし、上司は敢えて「動き始めたのだ」と言う。
『私が話しているのは、投資家の通常の投資活動の話ではありません』
「じゃあ何なんですか?そんなに改まって」
『……アスタが、中央列車と契約をしたという話が入ってきました』
アスタと中央列車が契約?
線路屋と投資家が商売上貸し借りをするのは当然だろう。それが通常ではなく、何が特別だというのか。
『セイゴ、現在の時計塔が病床に臥せっている、という話は知っていますね?』
「え?まあ……」
『まだ情報不足で詳細は分かりませんが、恐らくアスタは―――』
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