「…た、ただ、私は、心配で…、けど、そうか、それはお前の愛を信じていないも同然か…本当に悪かった!」
「あ、アゲリハ…」
「そうだな、よくよく考えれば恋人が私程美しければ偶には雑草が恋しくなるのもうなずける、その程度を浮気とみなすのは馬鹿らしいな!」
お前そのポジティブ一体なんなの!?再三言うけど頭割って中見て良い!?
「……い、いやまぁ、うん、俺はいいけど、俺よりツララギに謝ってくれ」
「誰が謝るかこの糞野郎、サノトの事は信じているが貴様の貞操の緩そうな顔面が疑わしいのは変わらんぞ!」
「ひでーな彼氏さん」
「喧しい!貴様時計に誓え、百歩譲ってサノトの雑草になるのは目を瞑ってやらん事もないがな、…手を出すなよ?」
「はいはい、分かりましたよ、時計に誓いますね、俺はサノトの雑草で結構けっこう」
けらけら笑うツララギに再び機嫌を損ねたらしいアゲリハが、サノトの腕を掴んで踵を返した。「帰るぞサノト!」とあからさまに怒鳴って店の出入り口へと向かっていく。
うわ、うわ、と、バランスを崩しながら歩き、丁度、出入り口付近で持ち直し、慌てて振り返ると。
「サノト、わかった?」
ツララギが「ね?」と言いたげな笑みで、片目を閉じてサノトにそう告げた。どういう意味だと口にしようとして、―――はたと目を開く。
扉が閉まったのと同時に足を止め、アゲリハを見上げたまま茫然とする。急に不自然な格好で固まったサノトに、アゲリハがさっと不機嫌を引っ込めた。
ぐっと、心配そうに顔を覗き込まれる。
「サノト?どうした、サノト」
「………そうか」
「サノト?」
「お前俺の事が好きなんだよな、不本意だけど」
「不本意とは何だ!それを言うならお前の顔の方が不本いたい!!」
「黙ってろ」
こんな風に言動行動がほとんど突飛過ぎる所為で気付いていなかったが、…こいつの行動はありがた迷惑も含めてそもそも俺の為にあることが多い。
つまり、今ツララギがしたみたいに、恋人という立場が相手の行動に働く事もあるという事だ。
…そんな事は付き合っていれば当たり前に分かる筈なのに、アゲリハに対してこれっぽっちも恋人の意識が無いので気付かなかった。
そういえば、首輪を解こうとした時も大人しく座ったな。サノトと帰ろうと言い出したのだって、あいつなりに俺の為みたいな風だったし。
なんだ、こう思うと要所要所では出来てるじゃないか。後は意図的に使えるかどうかか。
…まぁ、そんな事はこちらが意図的に気を付けなくても一般常識だろ分かれよと思うし、それこそ理不尽に思えなくもないけど、全部くるめて相手が悪すぎる。
それに、当初に比べこうなってしまったからには仕方ないと思える努力は出来るようになったのだ。改善の為の我慢ならば舵が無いより負担は少ない。よし。
そうと決まれば早速、サノトの腕を掴むアゲリハの手を解いて、覗きこむその顔に手を打った。痛い!と嘆く声が消える前に、頬を指で引っ張る。
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