「そうだな、まずは家事分担からかな、お前が思い切り挫折しやがった皿洗いから始めようぜ?」

「うん??何の話をしているんだサノト??」

「…お前との将来の話だよ」

「なんだサノト!もう将来設計か!?気が早いぞ!」

「ははは、そう言うなって、急かそうぜ?」

「うん??」

主に、俺の為にな。

「…はー、やれやれ」

とりあえず、やっと捕まえた生活の安寧に対するほそーい光明に、ほっと胸を撫で下ろす。それから、目の前の扉を開けて中に居るツララギに改めて手を振った。

戻ってきたサノトの表情を見たツララギが、意を含んだ笑みで手をひらひら振り返してくれる。持つべき物は友だなと、結構真剣に思った。

外に出て暫く歩くと、丁度食事時に近かったので偶には外で食べようとアゲリハに強請られた。どうしようか考え、財布を開いてから頷いた。

今、なかなか気分が良いので財布が少し痛くなっても然程気にならないだろう。それに、こういう気分の時くらい多少の楽をしたい。

合意を得たのでその辺りにあった店で一番安いパンをふたつ買い付け、もう暫く歩いた所で適当に腰をつけ、オギの店よりも粗末な包装のされた、見るからに安そうなパンを頬張った。

絵の具のようなソースの下から野菜や肉がはみ出てくる。見た目は然程良く無かったが味は不味くは無い。けど。

「お前の働いてる店のパンの方が美味いな」

「…そーだね」

同じ事を考えたらしいアゲリハが素直な感想を零す。それに、こっそり同意した。

もぐもぐ、暫くは無言で咀嚼していたが、ふと、先ほど気になった事を思い出し、飲み込んで直ぐ「なあ」と口を開いた。

「どうした?」

「あのさ、さっき時計に誓うとかなんとか言ってただろ?あれってどういう意味なんだ?」

アゲリハがツララギに噛みついていた時、何だか妙な事を言い出すなと思ったのだ。

普通ああいう時はかみさまに誓えとか、そんな風に物を言うのではないのだろうか。時計に誓うというのは、生まれて初めて聞く誓約だ。

サノトの問いかけを聞いていたアゲリハが、やがて同じように飲み込んでから、「ああ」と呟いた。

「あれはな、商売、というより取引をする奴らが良く使う言葉だ、時計を命とみなす誓約だな、あの間男も一応商売をしているからな、まぁ、唯の口約束といえばそれまでだが」

「いのち?」

「そう、時計は時を動かす物、時とは人の生であり、また、一秒が無慈悲に動く命そのものだと説いた奴が昔いてな、そいつが取引を生業とする人間だったから、長い時を経た後商売人や投資家たちの概念になった、だから奴らが何かを誓約するとき、時計に誓う事が多い、いのちをかける、いのちをとして、それが時計であり、時計への誓いである、という話だ」

「それって、神様じゃないんだな」

先ほどに続き、ごく自然に出た疑問に、アゲリハが不思議そうな顔を浮かべた。

「誰だそれは?」



【第2話完】
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