ツララギの相槌には返さず、色のついていない動力をひとつずつ確かめ始めた。時折差込口を見たり、装飾品の中でも、まだ差込口が存在している物を取り外して見たり。
恐らく、永久動力があるかどうかを確かめているのだろう。サノトも邪魔にならない範囲で手に取り、こっそり例の紙を覗きながら、差込口を見比べていく。
サノトが1割も見比べない内に、アゲリハが箱に全てを戻して「もういい、下げろ」と一声放った。
「御眼鏡に叶いませんでした?」
「まあな、…おい、まだ廃棄動力の状態の物は他にあるか?あるなら見せてくれ」
「え?ありますけど、オーダーメイドの検討もあるんですか?」
「オーダーメイド?なんの事だ」
「え?だから、首輪ですけど」
「…さっきから首輪首輪となんの話だ」
「いやだから、その為に今日来たんじゃないですか?」
「だから何の話だ」
段々と噛み違っていく会話の矛先を、ツララギがサノトを見る事で捻じ曲げた。ツララギの本題を適当に流してそのままだった事の説明を今更求められて焦る。
「サノト、話してないの?」
「いや、あの、説明はしようと思ったんだけど、友達の店に行くって言ったらそれどころじゃなくなって…」
サノトの言い訳を聞いた途端、ツララギが「ああ…」と頷きアゲリハを見た。
「彼氏さん、話もしない内に疑っちゃ駄目ですよー、それに、サノトが俺の店に来たの、サノトからお金無いから首輪を紐にしたって聞いたんで、俺のところで融通しようって話したからですよ」
「………」
「首輪なんて一生のものだし、紐も良いけど折角ならしっかりしたもの選んで下さいね、うちなら分割も」
昨日の話を拾いつつ、上手く話を進めてくれていたツララギに、突然アゲリハが心の底からいやそうな顔を浮かべた。
その顔のまま、急に立ち上がってツララギの襟を鷲掴む。驚くツララギに「馬鹿を言うな」と吐き捨てた。
「これはサノトが私にくれたものだぞ、それが何にも代わるものか、私の首輪はこれひとつだ、形状の是非が、首輪の在り方である筈があるか!」
「………」
ツララギが、アゲリハに怒鳴られた瞬間顔を真っ白にさせた。その顔を見た時、ざわっと気持ちが冷たくなる。
「サノト!気持ちは嬉しいが余計な事をするな!」
「あ、わ、悪い…そんなつもりじゃなかったんだ」
「おい、お前のところの首輪はどうでも良いが所用があって廃棄動力を探しているんだ、あるなら早く出せ」
「…ああ、はい、分かりました」
アゲリハの手から離れたツララギが、ふらりと揺れながら店の奥へと歩いていく。その背をそわそわしながら見つめていたが、結局「ちょっとトイレ借りてくる!」と言ってサノトも席を立ち上がった。
このままでは、友人が善意でしてくれた事をサノトの説明不足の所為で傷つけてしまった事になる。起こってしまってからでは遅いのは理解しているが、だとしても、せめて謝らなければ。
ツララギの背に追いつくと、直ぐに腕を掴み「ごめんツララギ!」と叫んだ。その時、振り返ったツララギの顔に―――ぎょっと目を剥く。
ツララギの白かった頬が血の気に染まり、目が少し潤んでいた。悲しそう、とか、傷ついた、というよりは、若干興奮しているような様相だ。
「…サノト、いいなぁっ」
何かをぼそりと呟かれたが、良く聞こえなかったので「え?」と聞き返すが、ツララギは「なんでもないと」首を振った。そして直ぐ、何時も通りの顔に戻って逆に「ごめんな」と謝られた。
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