仕事から帰ると何時もの場所にツララギが立っていた。サノトの姿を見つけると、片手を上げて「おつかれー」と労ってくれる。

その手に手を振り返し小走りで近づけば、じゃあ早速と言ってツララギが前を先導してくれた。時折振り返る彼の後姿に着いて歩く。

適当な場所でバスに乗ると、何時もは通らない方向へ車体が進んでいった。

ことことと、整備されて新しかったり、放ったらかしにされて具合が悪い道などを通ってから、程なくしてバスを降りる。

バス停に降りた時、サノトは思わず―――あれ?と声を上げた。馴染みは無い、しかし見覚えはある景色だった。

ツララギとかろうじて覚えのある道を進んでいく。暫くして、周りの建物よりも一層古臭い、染みの浮き出た石作の建物に辿り着いた。

「此処が俺の店」

「…うん」

不思議だ、これだけ日数が経ってから始めに戻ってきた。

誘われた扉の中に入ると店内は初めて入った時と同じく物で溢れかえっていた。圧迫されるような気分も相変わらずだ。

その奥で、あの時いなかったツララギが、慣れた顔で「いらっしゃい」と言った。

「…実はさ、一回来たことがあるんだ」

「え?ほんと?あれそうだっけ?覚えてないなぁ…」

お互い記憶の掛け合わせに失敗したが、特に気にせず話題を流した。

時折、配置や具合が気になるのかわが物顔で店の物を弄るツララギにふと尊敬を覚える。「自分の店ってすごいな」と素直に感想を零すと、ツララギが不意の賛辞に吃驚した顔で振り返り、次いで照れくさそうに相好を崩した。

「そうでもないよ、俺個人取引が主だし、此処なんか倉庫兼住居ついでに借りた安くて古い物件を仕事のお遊びついでに開けてるだけだし」

「へぇ」

「ちょ、そんな良い目で見ないでよ、その街の流行りに合わせてそこそこ儲けて見切りがついたら別の街に行く感じの適当な仕事だって」

「いやいや、それが凄いって」

働く、といえば何かに頼って仕事をするサノトの感覚では、ツララギの仕事内容がとても新鮮なものに聞こえた。

目をちょっと輝かせたサノトに気付いたのか、ツララギが「俺の事は良いから」と適当に話を切り上げサノトを再び手招いた。

その手に連れ添い、奥に設置されたカウンターの前に立つ。その、年期を感じさせる台の上にツララギが何かの箱を幾つか乗せ始めた。

鮮やかな色の箱から、重圧感のある箱まで、種類は様々だ。

5箱程乗せ終わった後、最後に鍵束が取り出された。箱の正面に取り付けられていた錠前をひとつ開ける。中に入っていたのはあらゆる色と光沢を持った、装飾と石の群れだった。

その、煌びやかな中身を、ツララギが「ほら」と指差した。

「これが今まで届いた分、好きなの選ぶといいよ、他の箱も開ける?一応廃棄動力状態の物もあるけど」

「ああ、ありがとう、よろし…」

お礼を言って顔を掬い上げた時――びくりと肩が鳴った。そのまま固まってしまう。

「………」

「あれ?どうしたのサノ―――うぉおおおびっくりした!!」

固まったサノトと同じ方向に視線を向けたツララギが大げさに退いた。視線の先には、店の側面に作られた窓がある。

「…あいつ」

それに覆い被る形で、べったりと、―――アゲリハがへばりついていたのだ。

暫く三人で見つめ合った後、アゲリハが窓から退き正面扉に向かって行った。表から堂々と中に入ってくると、茫然としているサノトとツララギに踵を鳴らしながら近づいてくる。

がん!とわざとらしくカウンター前で足を止めると、ツララギをぎらりと睨み据えた。

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