「なあ聞いてよ!俺もさ!俺も!暫く付き合ってた奴が居てつい昨日別れたんだけどさ!もうそいつ我が儘だし金使いは荒いし問題ばっかり起こすしで結構散々だったってのに最後になんていったと思う!?」

「…なんて言ったんだ?」

「あっそうご苦労様、だってよ!!何労ってんだふざけんな!!俺は財布でも便利道具でもないんだぞ!」

「…ほんとだよな?ほんとこれ、マジで理不尽だよな!?」

「そうなんだよ!そうなんだよサノト!」

お互い火が点いたように言い合いを始めていた。たまにずれる、しかし根元がそっくりな悩みを打ち明けて、一頻り盛り上がった後、示し合せたかのように「あぁあスッキリした!!」と叫んだ。

ほんの数分の事だったが、数日分の鬱憤を一時的に晴らすには十分な時間だった。

お互いの不満を言い終わった後、ふは!と肩で息をする。暫くは息を整えていたが、先に呼吸を落ち着かせたツララギが、晴れた声色で「ねぇ」と話しかけてきた。

「サノトと一緒に住んでる奴って恋人なのか?」

「……ペット?」

「ペット?」

「いや、うん、冗談、…そうだな、一応こいびと?なのかな」

「ふうん?じゃあもしかして、それって首輪なの?」

「え?」

ツララギが自分の首に触れ小首を傾げてくる。多分、サノトのリボンの事を指しているのだろう。ああ、と頷き自分も首筋に触れる。

「前まで巻いてなかったよな?」

「うん、そう、ごねられたから昨日ちょっとね」

「そっか、…けど、婚約首輪リボンで済ませるとか、マジで金がねぇんだな」

「ははは…うんまあ」

これはどっちかというと成り行きだったんだけど、説明する程大した事でも無いのでそういう事にしておこう。

「サノト、金が無くても首輪あげたんだな」

「うーん」

「そいつの所為で金が無くても苛々しても、そっか、好きなんだな、そういうの俺好きだよ」

「…うーん、ありがとう」

適当に話を切り上げようとしたのだが、事態を重くみてくれたらしいツララギが、少し眉を顰めてから―――おもむろに立ち上がった。

「よっし!サノト、明日時間の良い時に俺の店来ない?」

「え?」

「実は俺ね、骨董美術と総合雑貨の店やってるんだ、サノトだったら分割大丈夫だし利息もまけとくよ?リボンも良いけどさ、首輪なんて一生ものだし、折角だからしっかり選びなって」

「え、いや、けど」

「遠慮すんなって!こっちだって何もタダでやるよって訳じゃないし!ほら、ともだちだって儲けに繋がる事だってあるし、軽く考えてよ、ああそうだ、丁度良かった、うち今良い装飾品を揃えてるんだ、首輪もあるから出来るだけ安く譲ってやるよ」

「あの、えっと」

「知り合いの投資家が最近出入りの変動に変な癖があったって言っててさ、元々人気高いシリーズ使った奴だし、もしかしたら良い当たりがくるかもしれないって言うから借入で大量に仕入れてみたんだよね」

「つらら」

「ああそうそう、大事な事言い忘れてた、シリーズはグランディアだよ、良いだろ?ついでに加工前の廃棄動力もいっぱい仕入れてみたんだけど売れるといいなぁ」

―――ぴたりと、飛躍した誤解を和らげようとした口が止まった。





「――という訳でさ、友達が色々見せてくれる事になったから、明日俺の仕事が終わったら一緒に行ってみようぜ、セイゴは都合どうだ?」

「僕?僕はいいよ、サノトが居ない時だけまぁ手伝おっかなって感じだったし、二人揃った時は二人で行って来れば?」

「ああ、わかった、…おい、アゲリハ」

事の顛末を晩飯ついでに伝えると、黙って真剣に聞いていた、かと思いきや盛大に眉を顰めたアゲリハが、ぶすっと唇を尖らせた。

「どうした?」と聞けば、かつかつと食器を指で叩きながら、じろりと睨まれる。

「何時の間にトモダチなぞ作ったんだ」

え?そこ?

俺、動力以外の話は1割もしてなかったつもりなんだけど?

「…いや、友だちの一人や二人作ったって良いだろ」

怒るべきか呆れるべきか迷って、とりあえず目を逸らすと「良くない!」と机を叩かれた。

ずい、と身を乗り出してきたアゲリハが、やたらと必死な形相でサノトの目前にまで迫ってくる。

「お前がそいつと浮気したらどうするんだ!」

…………。はー。

「無い、ないない、俺の向こうのダチにそっくりな奴なんだぞ、余計に無いわ」

「なんだと!?知人に似ているなら余計にあり得るだろう!?親身なフリをしてサノトに何をしでかすか!」

「そんな素振りあってたまるか!!アイツだよアイツ!お前あっちで見ただろ!?そんな素振りすこっしも無かっただろ!発展形に見えたのかあれが!」

「サノトしか見てなかったから知らん!」

…………。はー。

「もう良いよく分かった、一人で行く」

「うわぁあん!!いっちゃいやだぁああああ!!」

話はこれで終いだと、食器を持って立ち上がったサノトの背後をがん!!と大きな物が覆う。その拍子に、三人分しか無い食器が二人分程床に落ちて割れた。

「おぉおおい食器どうしてくれんだてめぇええ!!お前がこれの代わり払ってくれんのかくそがぁあああ!!」

「サノトに身体ではらうぅうう!!」

「いるかボンクラ死ね!!」

「おーい二人とも、おーい、…まぁいいか、程ほどにねー、おやすみー」

今日吐いた筈の鬱憤が、原因の所為で三乗してサノトの怒りを誘った。罵声を吐いて暴力をふるって、ふるって、…途中、何をしているか良く分からなくなった。

我に返ったのは次の日の朝だった。やたらと痛い拳と足、後は、床に落ちているアゲリハを見て、まぁ何となく何があったかは察した。

とんとんと米神を叩いてから身支度をすませて外に出る。

今日も仕事に行って、帰りにツララギの所へ寄ろう。無論一人で。

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