はー。

昨日の今日で再び吹き飛んでしまった、否、払う額の増えてしまった金銭を仕事中だというのに、何度も思い出してしまう。その都度気分は最悪にまで落ち込んだ。

暗い顔をしたサノトを何度もオギが「どうかしましたか?」と気遣ってくれる始末だ。

全然大丈夫では無い顔で「大丈夫です」と答えるのが辛い。今もオギの好意で休憩を貰っているが、頭に浮かんでくるのは金のことばかりでうんざりする。

全ては帰る手段の為にやっている筈なのに、この本末転倒感はなんだろう。

ああ、俺は悪くない、悪くないのに。…そろそろいい加減にしてほしいよね。ね?

はー。

椅子に腰かけるサノトのすぐ近くで、まったく同じような溜め息が聞こえた。ああ、世の中苦労に塗れて…。るかと思えば、それは知り合いの顔から出た息だった。

何時の間にか、全然気づかない内にツララギが立っていた。一瞬瞠目してから、「よお」と相手に声を掛ける。

「どうしたツララギ、こんな所で会うなんて珍しいのな」

「あ、サノト、ごめん店先で、うん、パン買いに来たんだけどさ」

「ああ、そういやそんな話したな、わざわざ来てくれたのか?ありがとうな」

「いいえー、けどその前に…ちょっと隣良い?なんか疲れちゃって」

「うん?いいよ、いいけど、…どうした?大丈夫か?」

「うん…」

はー。と再びツララギが溜め息を吐く。それにつられて、サノトも息を溢した。ふっと、ツララギがこちらを振り向く。

「どうした?なんかあった?」

「え?いや…」

それはお前だろう、と言いかけたが、自分よりもひとの心配を優先する鈴木の事を思い出して止めた。

「言うほどの事でも、…ない、んだけど」

苦労を口に出来そうな機会を掴み、変にうずうずとした。なんていうかな、多分、疲れてるんだな。

溜まった愚痴を本人に言っても直らないし、セイゴは爆笑するだけしてこちらの努力をバカにするし、オギに愚痴なんて言えないし。

そんな時に、知り合いにそっくりなやつに心配されたら、言いたくて言いたくて疼きもするだろう。けど、知り合って間もない奴に愚痴を言うのも、なんだかな。

だけど、だけどな。だけど。

…もういいや、いっちゃえ。

そもそもどうしたんだって聞かれてるんだ。聞かれた事に答えるだけだよ。いっちゃえいっちゃえ。

「ちょっと、金がさ、…生活費とかに困ってて」

「ええー?サノトきっちりしてそうなのに」

うん、そうなんだ、自分はきっちりしてる方だと思うんだ。じゃなきゃこんな心労抱えてないだろうし。

「俺のせいじゃないんだ、俺じゃ…」

「うん?何が原因なんだ?」

「一緒に住んでる奴、あいつ、凄い金食い虫の癖に稼ぎに使えなくて、しかも、毎度毎度反省の色が無いっていうか、付き合わされてるこっちは溜まったもんじゃないっていうか、いい加減にしろっていうか…ごめん、なんか」

愚痴っていうのは吐きたくなるものだけれど、言い終わった後の脱力感が嫌いだ。

こんなどうしようも無い話を人に聞かせてしまった事に対する罪悪感もあるかもしれない。

屹度困った顔をされているだろうな…と、思いきや、何故か急に肩を叩かれた。

ビックリして顔を上げると、眉を顰めたツララギの顔が、鼻先にまで迫る。

「分かる」

「え?」

「分かるよサノト!ほんっとこっちの苦労分かってないよな!」

「え?え?」

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