特に成果を上げらないまま部屋に戻ると、隣からセイゴがひょっこり顔を出した。どうやら先に仕事から帰ってきたらしい。
「おかえりー」と手を振ってくるので、同じく手を振り「お前もな」と返す。
丁度買い物を済ませてきたので、今日はこっちで食べるかどうかを確認すると、楽しそう頷きながらこちらへ向かって来た。
「サノトって最近僕の分もきっちり買ってきてくれるよねー」
「お前がいらなくても明日使えばいいしな」
「ふへへ、なんか嬉しいね、アゲリハ様がサノトのどこを好きになったのか今ちょっとわかったよ」
「惚れるなよ?」
「全くだセイゴ!人の男に手を出すんじゃないぞ!」
ひとのおとこに手を出すな、か。その台詞を男に言われる日が来るとは思わなんだ。
「ださねーし、ていうか二人とも、首に巻いてるのなあに?昨日まではつけてなかったよね?なんか可愛いね?新手のお洒落?それとも洒落?」
とんとん、と指で自分の首を叩くセイゴに、「あーこれ」と、説明する、前に、アゲリハが「婚約首輪だ!」と叫んだ。
長い睫毛をぱちぱちと揺らした後、ああ、とセイゴが手を叩く。
「それ婚約首輪なんだ、ふーん、珍しい感じでいいんじゃない?けど、解け易そうだから気を付けてね、婚約が毎回解けるとかそれこそ洒落になんないし」
「ん?そうだな」
「それはさておき、アゲリハ様、今日勝手に小切手使ったでしょ?」
「目敏いな」
「僕がそんなに神経質な訳ないでしょ、ガィラ様が今日の支払い内容、詳細に確認したみたいだよ?それで、今日帰り際に伝言を預かってきましたよ」
「なんだ?」
「こういう時くらい節度を覚えなさい!だって、はいこれ」
誰かの口真似をしてアゲリハを叱責したあと、セイゴがなにかを見せてきた。
アゲリハよりも先に「これなんだ?」とセイゴに問えば、人の悪そうな笑みを浮かべられる。
「今日二人が私用で使った料金分の請求書だってさ、骨のひとつもまけません、って言ってたよ?あ、支払は月末で良いらしいから、よかったねー?」
「「………」」
ぶわっと、沈黙が降りる。サノトは顔を伏せ、アゲリハはわざとらしく他所を向き、セイゴは爆笑寸前の雰囲気だ。
その内、サノトの服の裾をきゅっと掴んだアゲリハが、「すまな」と何事かを呟きかけた。が、それが言葉になる前に、伏せた顔を上げて鬼の形相を浮かべる。
「今度からにこにこ笑って現金出せ!!」
何回やっても反省しない相手に今日も学習の拳を飛ばす。何時も通り倒れた相手が、伏せた状態で漸く「ごめんなさい」と謝罪を完成させた。
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