「サノト!これなんかどうだ!?」
「うんうん」
「気に入らないか?それじゃこっちは?」
「あーはいはい、後でね」
「わかった!こっちだな!?」
「そうだねそうだね、あとでね」
「サノト!ちゃんと見ろ!」
「……だぁああうるせぇな!!そんなに選びたきゃ勝手に好きなの選んでろ!!」
「二人で選んだものが良いに決まってるだろ!」
また女みてぇな事言ってるし!めんどくせぇなこの野郎!
昼飯を食べ終わった後、アゲリハは動力の事など目にも入らなくなってしまったらしく、ずっとこの調子だ。
とりあえず、昼食を終えてから3時間くらいはこの状態で、サノトにどれがいいかこれがいいかと言っては首輪を見せて騒いでいる。
こちとら分からないなりに頑張って動力を探しているのに、こんな風に騒がれては堪ったものではない。
「そっちはもののついでだって、てめーが言ったんだろ!先に動力探せよ動力!」
叱責すると、アゲリハがうぐ、と唸った。もごもごと口をさ迷わせながら「だって」と呟く。
「よくよく考えたら、こっちの方が中々機会がないなって、一緒に店に来たの、久しぶりだし…サノト何時もお仕事行ってるし」
「だれのせいだと思ってる!!」
飛び出た罵声を浴びたアゲリハがびくりと震え、直ぐ、ふにゃ、と涙目になった。
ああでたよ、感情に触れると感情で訴えて来るやつ。ほんっとめんどくせぇ。
「う…今日折角、せっかく一緒に、ううー」
本格的に泣き始めたアゲリハを数分は放っておいたが、そのうち辺りの視線が嫌になって舌打ちを打った。
なんだよ俺が悪者みたいな目の集まり方は。なんだよ!選べばいいんだろ選べば!やってやるよまったくもうな!
適当にひっつかんでやろうと思ったが、その適当を選ぶ前に、それまで気にしていなかった値段を見て手が止まった。
自分の物として買うにはおっそろしく高い代物だ。こいつとは違い普通の神経をしている自分では、到底、ひとの金でこれを買おうなどとは思えない。
何とか自力で買えそうな物もあるけれど、正直底値でも手を出したくない域だ。…ならば。
「すみません、あの棚の紐、リボン?ちょっと分けてもらっていいですか?」
こちらを盗み見ていた店員に近づくと、店員がびくっと震えた。数秒してから用件を理解したらしい店員が、早速それを分けてくれる。
「お金は?」
「いえ、結構です…」
「そうですか、有難う」
訝しげな店員の視線をさっさと振り切ると、紐――真っ赤に染まった鮮やかなリボンを片手にアゲリハの元へ戻る。
それから、店のど真ん中で体育座りを始めた見るからに邪魔くさいソレの首筋に両手とリボンを近づけると、なんの前置きも声掛けもなく巻き付けた。
「おらよ!これで満足か!」
「ぐえ!!」
唐突にぐい!と首を締められ、アゲリハが苦痛にうめく。しかし、何をされたかに気づくと、潤んだ目をぱちっと開き、こちらに振り返った。
首に巻かれた赤い紐を指先で弄りながら「これ」と呟く。
「俺からの婚約首輪だ、文句あるか?」
はっと鼻で笑ったサノトを暫く眺めていたが、その内、立ち上がって店員の方へ向かっていった。
そして、別の色の紐を手に戻ってくると、するする、サノトの首にソレを優しく巻きつける。
「…文句はないぞ、サノト、うれしい」
「…ふーん、よかったな」
「うん」
あーあ、こんな事で嬉しそうな顔しやがって。
「ばかみてぇ」
「そんなことは無いぞ」
首輪をつけた犬のように、リボンを巻いてみるみる大人しくなったアゲリハが、サノトの隣に立ちにこりと笑った。
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