適当に謝っているとバスが向こう側から姿を現した。それと同時に、誰かが後ろを駆けていく音が聞こえる。振り返ると、セイゴの横顔が見えた。
セイゴも気づいたのか、ぱっと眼が合ってから、ぶんぶんと手を振りまた駆けていった。多分別のバスを利用するのだろう。
「セイゴ何しに行くんだ?」
「何でも定期報告をしにいくそうだぞ」
「何も進んでないのに何の報告をしに行ったんだアイツ」
「さあな?けど小切手を置いていったから問題ない!」
「小切手?」
「ああ、セイゴの持ち物だが今日はとくべつに貸し出しだ、これさえあれば紙に値段を書くだけで何でも買い放題だ、昼は何時もより良い物を食べよう」
「…それ、もしかしなくとも動力用じゃないのか?セイゴが居ないから、今日だけ貸してくれただけじゃないのか?」
「大丈夫だいじょうぶ!」
猫糞する気満々だなこいつ。
「この際だぞサノト、何が食べたい?」
「………なにって」
ごくんと唾を飲み込み、ふっと上を向く。
食べたい物を想像し、真っ先に出てきたのは、油が滴るなまめかしい鶏の姿だった。
「…揚げた鶏がいっぱい食べたい」
「あっはっは、了解だ」
軽快に笑った後、アゲリハは大きな黒い羽根の中から別の、折り畳まれた紙を取り出した。
…こいつ何時も羽根から物を取り出してくるけど、あの中一体どうなってるんだろう。
折り畳まれた紙を一枚に直すと、そこには等間隔の線や記号が色つきで描かれていた。馴染みのないその形は、何時かにも見たこの国の地図だ。
等間隔の線上をアゲリハの長い指がなぞっていく。一部でぴたりと手を止め、「現在地は此処だ」と呟いた。
「此処からおよそ左の付近は大体調べたんだ、店同士の品揃えは密集したり、時にばらけたりするが、ここ等はそこそこ外れてなさそうだ」
「ふーん」
そう言われても良くわからんなぁ、というのが顔に出ていたのか、アゲリハが「大まかな当ては外れていないから心配するな」とフォローを入れた。
「まぁ、とにかく探せってことですね」
「その通りだ、問題無い」
話の締めと同時に現れたバスに乗り、目的地の付近で降りた。
アゲリハに誘われ建物の中に入る。以前とは違う雰囲気のこざっぱりとした店で、綺麗に整頓された廃棄動力を早速二人で手に取った。
「ほんとに一杯あるなぁ…」
アゲリハが折り畳んだ紙を再び取り出しそれをサノトに見せてきた。
また地図かと思いきや、そこ書かれていたのは、渦巻き状の物が所々欠けていたり、出っ張ったりしているものが幾つか書かれている、何だかよく分からないイラストだった。
「永久動力の差し込み口を方向別に絵にした物だ、分かるか?…此処がわずかに欠けているだろう?」
確かに、言われてみればのレベルで欠けている。が。…うぉお、目が痛い話だなこれ。
「これはお前が保管していると良い、私は店の品ぞろえを見て、グランディアシリーズがありそうかどうかの判断をするから、ありそうだった時に、それを見てサノトも探すのを手伝ってくれ」
「わ、分かった…」
「よし、とりあえず此処には無いみたいだから次に行こう」
「え?うん?ここ等当ての良い場所じゃないの?」
「そうだ、だが外れた、まぁそういう事もある」
本腰に入ったかと思いきや透かしを食らい、気が抜けてしまう。そんなサノトに構わず、アゲリハはさっさと出入り口に向かっていった。
近くまで来ていたらしい店員がものの数分で出ていった客をぽかんとした目で見詰めている。その目と目が合わないように慌ててアゲリハの背を追った。
―――そんなことが何店も続き、気付けばあっという間に陽が真上に昇ってしまった。結局なんの進歩も無いまま飯の時間を迎えてしまう。
昼御飯を挟もうと提案したアゲリハが、今居る場所から少し歩いた先にまでサノトを連れていった。道に沿った店の中から、芳しい油の臭いが漂ってくる。
「揚げた鶏がいっぱい食えるぞ」と、アゲリハが笑って言う。今朝方サノトが言ったリクエストを律儀に覚えていたらしい。
サノトを適当な場所に座らせたアゲリハが傘に近づき、暫くしてから抱える程の大袋を持って戻ってきた。
中には、揚げた鶏が隙間も見えない程ぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「うまそ…」
久しぶりのごちそうに、見た目と香りだけで胃がぎゅうと動いた。
既に一本目にかぶりついていたアゲリハが「うまい!」と叫ぶ。ああいいな、俺も食べよう。
「ほういえははなはのほ」
「ごっくんしてから言おうか?」
「ん、そういえばだなサノト」
「なんだ」
「今日は動力探しのついでにだな、その、そろそろあれを選んでおこうかと思ってだな」
「何を?」
「なにって、ほら、私たち婚約してるじゃないか?だから…」
「ああ、首輪?けど俺達金ないぞ」
「小切手があるぞ!」
「そんなものまで猫糞する気かお前は…末恐ろしいな」
なんか照れ臭そうにしてるけど、どろぼうだからね?こいつなら平然とやっちゃいそうだけど。
半目になっていたサノトの首筋に、ふとアゲリハの指先が触れた。人差し指と中指でするするとそこを撫で、艶かしい息をつく。
「早く、お前の首を縛りたいなぁ」
…すげぇ台詞だな。別にいいけど。
「ま、する分には構わないけどあんまり邪魔そうなのは止めてくれよ」
「うん!」
勢い良く返事をして立ち上がる。その拍子に袋が下に落ちた。何時の間にか中身が空になっていて、残骸が傍で山盛りになっていた。
アゲリハがひょいひょいと食べ進めるので、自分もつられていた事に今気付いた。
屑と袋を店に引き取って貰うと、はやくはやくとアゲリハに急かされた。
その手に引きずられながら、ふと、そういえば、今日やたらと気合いが入ってて、やたらと嬉しそうだったのは、もしかしてこれの所為かなと思った。
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