「サノトー、おつかれー」

「ツララギ」

出会ってから暫く経たない内にツララギと出会う回数が増えて行った。

はじめはコロッケ屋の近くだったが、その内サノトの行動範囲を覚えたらしく、こうしてバス亭に向かうサノトを捕まえる事が度々起こるようになった。

サノトの何を気に入ったのか、ツララギは頻繁にサノトと会話をしたがった。それに対して面倒だと思った事は無い。

むしろ、毎日顔を突き合わせていた友人にそっくりな友人と話をするのが、ここ最近の楽しみになっていた。

今日もバス停手前の、錆びた椅子が二つ置かれた場所に誘われた。

先にツララギが飲み物を買っておいて、それをサノトに投げてよこすのが常だ。

「今日も大丈夫?」

「ああ、ツララギこそ何時も良いのか?」

「もちろん、付き合ってくれてありがとね?」

「いいえー」

くい、と缶を煽ったツララギが、「そういえば」とサノトに振り向く。

「サノトって三番街の生まれなの?」

「え?違うよ」

「あ、出稼ぎ?此処等って物件安い割に賃金良いもんな、まー、もっと前に比べたら家賃とか高くなったけど、それでも全然安いよな」

「…いや、違うんだよ」

ぱちくり。目を瞬かせるツララギの視線から視線を外し、ははは、と苦笑する。

毎日出稼ぎしているようなものだけれど、それは必要な事であって目的では無い。

「じゃあ何?」

「…えーと」

カラスみたいな男に誘拐されて、空飛ぶ列車で此処まで来て、宝くじみたいな物を探してます。

…その通りだな。

けど、うん、一部口止めされている…というより、言った所で信じて貰えないよねこれ!

「一緒に住んでる奴が、こっち来たいって言ったから…」

適当に誤魔化すと、ツララギが「そうなんだ」と頷いた。ごめん、ほんとはもうちょっと複雑なんだ。

「あ、ごめん時間だ」

うんざりしているサノトの隣でツララギが顔を上げた。ツララギは何時も30分程話し込んでから唐突に席を外す。

何となく気になって「何か用事があるのか?」と聞けば、「ちょっとね」と返ってきた。

「飯も作らないといけないしな」

「ああ、…俺もだな」

「ふはは、気が合うね?」

「そーだな、…あ、良かったら今度パン買いに来いよ」

「ん?サノト、パン売ってんの?」

興味有り気に身を乗り出すツララギに、手振りと口振りで場所を告げると、ああ!と声が上がった。

「あそこの赤い箱ね!気になってたんだよな!明日行くよ」

「残念、明日休みなんだ」

「そ?じゃあ明後日行くかな、その次の日でも良いし、居る?」

「居るいる、待ってるなー」

「うん、わかった、…じゃあ行くかな」

お互い、さよならも告げず適当に捌ける。

一度振り返るとツララギも同じように振り返っていて、視線がかち合う。相手がにこりと微笑み、手を振った。





次の日は休みだと告げると、アゲリハが嬉しそうに「明日は一緒に店を回ろう!」と提案してきた。

相変わらず入り込んでいるセイゴが「僕も明日は仕事で戻るから丁度いいですね」と同意する。

反対するいわれ(ちゃんとやっているかどうかも確認したかったし)も無いので大人しく従うと、アゲリハにしがみつかれた。何でこんなに大喜びされているんだろう。謎だ。

次の日、何時も通りの支度を済ませていると、部屋の向こうからラフな格好を脱ぎ捨てたアゲリハが爛々と躍り出てきた。何でやたらと気合が入ってるんだろう。謎だ。

時間が惜しいから早速出ようと言われたので、ちょっと曲がっていた襟を直してやりつつ、朝ごはん兼弁当を手に外に出た。

バスを待ちつつ、弁当、もとい、昨日珍しく余ったパンを半分渡してやる。

ソレを口に入れたアゲリハが、にこにこ笑って「サノトの作ったパン美味しい」と感想を述べた。

「俺が作ったかどうかなんて分かる訳無いだろ、オギさんだって作ってるんだし」

「いやこれだ!私には分かるぞ!なぜなら」

「愛の力とか言うなよ」

「………」

「………」

「オチを取るな!」

「ゴメンネー」

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